「仕事ができることに感謝できる人は、会社からも周りの人からも信頼され、大事にされる」

 私が新人だった頃、仕事ができなくて困りました。

 しかし、私よりもっと困ったのは、上司であり、先輩であり、また周りの人達だったと思います。

 何しろ、世界的な国際会計・経営コンサルティング会社のニューヨーク本社に就職させて頂いたのに、英語ができない上、専門知識・経験もまったくなかったのですから。

 職場の人は皆、私の扱いに戸惑ったことでしょう。

「なぜ、こんなできないやつを会社は雇ったんだ?」

 私のことでのそんなひそひそ話を、何度も耳にしました。

遂に、私はノイローゼになってしまいました。毎日職場での皆の白い目が、怖くて怖くてしょうがありませんでした。

 ですから、朝自宅から出社しようとすると、下痢になったり、腹痛を起こしたり、吐き気をもよおしていました。本当に行くのが嫌だったのです。恐怖でもありました。

 そんな最悪の中、たった一つ会社に素直に感謝できることがありました。

 それは、そんなに能力がない私を雇った上、すぐにクビにしなかったことです。

なぜなら、本来ならいつ解雇されてもおかしくないくらい、仕事ができませんでしたから。会社、特に上司の忍耐には、感謝してもしきれないものがあると、今思っています。

 確かに職場に行くのは恐怖でした。が、その一方で、ミスや失敗を繰り返す私に、その職場での席を残し、チャンスを与え続けてくれたことは、経営者になった今、考えれば考える程、頭が下がる思いです。

「なんという忍耐力! 私にはできないかも……」

 当時、その点は本当に心から感謝していましたので、せめてもの恩返しに、雑用係として一生懸命奮闘しました。クビを切られるまで頑張る決意でした。

 それが私にできる最大の感謝の表現でした。

 たとえば、書類をコピーするにも、誰がどんな目的でそのコピーを使うのかを把握するようにしました。

 80歳近いお年寄りのクライアントが、そのコピーを読むことがわかったら、拡大コピーして、できるだけ大きな文字になるよう努めました。

 更にコピーする前から、オリジナルの書類が汚ければ、修正液で徹底的にきれいにしてコピーしたものです。

 そして、よく資料の文字が斜めになっていたりしましたので、まっすぐになるようコピーしました。

 その気配りを上司は高く高く評価してくれました。

 彼は突然聞いてきました。

「凄いじゃないか、気配り抜群だね! どうしてそこまで頑張れるんだ?」

「はい、本来なら私みたいなお荷物社員はクビになるはずなのに、雇い続けて頂いているので、せめてもの感謝の印なのです。足ばかり引っ張っているので、雑用で少しでも皆さんのお役に立てればと思いまして……」

 上司はとても嬉しそうに聞いていました。そのお陰で、私は上司や先輩にとても気に入られました。

挙句の果てに、クビを切られるどころか、どんどん出世させて頂いたのです。

「本当に申し訳ないなあ」と、職場にいると、いつも感謝の気持ちが沸いてきたものです。そして、一日も早く仕事で成果が出せるよう、毎日祈る思いで、仕事に当たっていました。

 今本当に思います。

人生ってまったくわからないものですね!

言えることは、仕事でも何事でも、感謝して一生懸命やっていれば、人は見ているし、それをしっかり評価されるということです。

大事なことは、自らが判断せず、評価されるまで、やり続けることではないでしょうか。