「あなたがダメな理由は、まず相手の言葉を全て聞こうとしない傲慢さがあるから。中途半端に聞いていたら、判断は間違えるに決まっている」



「A君、ちょっと待て! 何を考えているんだ、またいい加減なことを言って! 何の根拠があってこんなとんでもない新規事業をやろうとするんだ? 第一しっかり事業計画、特に収支計画立ててみたのか? 我々はサークル活動や慈善事業をやってるんじゃないんだぞ!」

「すみません。まだ、説明始めたばかりなんですが……。わかりやすくするために、まず結論から申し上げました。成功すると思われる根拠は、これからお渡しする市場調査結果の資料で説明させて頂きます。その中に細かい事業計画や収支計画も入れておいたのですが……」

「何言っているんだよ! 夢の世界じゃあるまいし。こんな事業できるわけないだろう! 常識で考えろ! 皆忙しんだから、もっとちゃんとした案が出てきたら、再度検討しよう」


 ある会社の新規事業を検討する会議に参加した時の上司と部下との会話です。

 それを聞いていて、とても懐かしく思いました。

「なるほど、僕も昔こんな風に、少し聞いただけで納得がいかないと、すぐに部下の話を遮って、聞く耳を持たなくなっていたんだなあ……。その意味では、本当に僕はダメな人間だったんだ。周りの人は随分と僕の言動に困惑し憤慨したことだろう」

 その上司の発言があまりにも昔の私の言動に似ていたので、反面教師として映り、あらためて昔のことを深く反省してしまいした。


 忙しくなるとついつい相手の言葉を全て聞く余裕がなくなります。

一見大してことではなさそうな報告や相談でも、よくよく聞いて深く考えてみると、すごく大事であったりします。

 じっくり真剣に聞くからその重要度がわかってくるのです。


 言葉とはあくまでも表面的なのですが、その裏には大問題や大事件、またすばらしいチャンスが潜んでいたりもします。

 私が米国の経営大学院で教えていた頃、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者が次々に講演に来ていました。

せっかくのチャンスなので、毎回私は質問をさせて頂きました。

「その理論のアィデアやヒントは、いつどこで得たのですか?」と。

 するとノーベル経済学賞受賞者達は、大体次のように言われるのです。

「人に報告や説明をしている時や人から報告や説明を受けている時に、よくフッと沸いたように普段思いつかないひらめきがあります。それを追求・研究していったら、新しい理論に結びつくことが往々にしてあるのです。その蓄積です。」


 確かに私も、部下からのよくわからない報告を受けていて、一生懸命理解しようと聞いていた時に、部下からのアイディアから発生して、更に考えが出てきた経験が何度もあります。

 やはり、人の話を最後まで聞くことは大事なんですよね。