「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

 有名な言葉です。偉くなればなるほど、稲の穂が実っていくように、段々頭が下がり低姿勢に、つまり謙虚になっていくのです。

 これを徹底的に実践されていたのが、ウォールマート創業者で、生前米国一の大富豪だったサム・ウォルトン氏でした。

私は彼の周りにいた時、一度として彼が社長とか大富豪とかを感じさせられたことがありませんでした。その辺にいるフレンドリーなおじさんというのがいつ会っても受ける印象でした。

ある時彼に聞きました。

「小売業で世界一そして、米国一の大富豪になったのに、何でサムは毎日店に行って店員みたいなことをしているのですか?」

「だって、お客様や社員あっての商売であり会社です。会社の最高責任者として、毎日一人ひとりのお客様と社員に感謝の意を表せずにはおれません。その唯一かつベストな方法は、現場でお客様や社員とコミュニケーションとることなのです。それは、凄く勉強になるし、勇気がいることなのですよ。だって、毎日現場にいると、問題点が山ほど出てくるので、凄く怖いことでもあるのです。本当は、見たくも知りたくもなく、逃げ出したい気持ちになることもあります。でも、トップである私が現実から逃げたら、これから誰がこの会社を信じてついて来てくれるのでしょう。ですから、私は、健康なうちは、現場で仕事をし続けます。それが、創業者としての私の最も大事な使命ですから」


 私は感動しました。彼は世界でもトップクラスの企業を一代で創り、大富豪になったのです。しかし、驕ることも、休むこともなく、毎日仕事に命を賭け続けていたのです。それも、本当に倒れるまでそれを続けたのです。

 彼にとっては、お金儲けはどうでもよかったのです。とにかく、お客様、社員、取引先を大切にし、守り喜ばすことで必死だったのです。

 ですから、大富豪になっても、安い服を着て普通のトラックで出社し、社員と同じものを食べて同じような暮しをしていたのです。

 しかし、それだけやり遂げたにもかかわらず、まだまだ仕事へのやる気は衰えませんでした。ウォルトンさんは言い切りました。

「人間謙虚になればなるほど、やる気が出てくると思います。なぜなら、謙虚になればなるほど、自分でやらなければならないことがどんどん見つかり、次々対処しなければ手遅れになることから、自ら第一線で指揮をし対応しているのです。従って、自然と『まずリーダーとしての自分が頑張らなければ、誰も会社を信用しないし、頑張ってもくれない!』と俄然やる気も出てくるのです。『私が率先してやらなければ、誰がやる?』との責任感からです」


 確かに、リーダーが謙虚に現実を受け止められれば、やる事が自ずと見えてきますから、どんどん問題の解決や現状の改善がなされていきます。

 謙虚でなければ、現実を受け入れられませんから、当然やる気もなくなっていきます。終いには、現実から逃げていきます。

 そして、逆に、やる気がなければ、改善や実行の意欲もないわけですから、謙虚でなくなっているとも言えるのです。そんな人に重要な仕事を頼んだら、大きな失敗を犯すことでしょう。


 確かに凡人だったはずの人が、とんでもない偉業を成し遂げる時、その人は大変謙虚になっている一方、物凄くやる気も出しているのです。これは、米国にいた時、何度も見てきました。

 例えば、デル・コンピュータのマイケル・デル氏もその典型的なタイプです。世界最大のパソコン・メーカーになった後でも、競合他社からいつ追いつき追い越されるのか、大危機感を持って、日々猛勉強をしていました。

 どんなに売上や利益が急増したとしても、まったく安心しませんでした。

 その謙虚さが、あの巨人IBMをも、負かせた理由だったと思います。

 日本でも、国内最大小売業「イトーヨーカ堂」グループを創り上げた、伊藤雅俊氏が同様の徹底した謙虚さをお持ちのようです。

「今でもイトーヨーカ堂に顧客が来なくなって、会社が潰れる夢を見る」と、同社が絶頂期に言われたのには、ビックリしました。万が一、イトーヨーカ堂グループが破綻することがあれば、日本経済も破滅していることでしょう。