日本の大学を出て、米国で就職したての頃、「フォーチュン」という有名なビジネス雑誌が、米国を代表する大手500社の最高経営責任者(CEO)に対してアンケート調査をしました。

 そのアンケート調査の質問の一つに、「ビジネスパーソンが仕事をする上で、最も重要な能力は何か?」がありました。それで、圧倒的に多かった答えが、「コミュニケーション能力」でした。

 当時私はとても不思議に思いました。なんで「『コミュニケーション能力』なのだろう? それより、専門能力や協調性の方が大事じゃないのかなあ」と。

 あれから、ビジネスの世界にどっぷり浸って四半世紀近くになります。今は、本当に「コミュニケーション能力」が一番大事だと実感します。


 なぜ「コミュニケーション能力」が大事なのでしょう?

 答えは簡単なのです。我々は、一人でビジネスをしている訳でなく、何をやるにしても、様々な人の協力や支援が必要だからなのです。

 その協力や支援を得るためには、効果的なコミュニケーションが大きなカギになります。ですから、コミュニケーションの上手い人は、周りの人から理解を得、どんどん協力や支援を得られます。

 逆にどんな素晴らしいプロジェクトでも、『コミュニケーション能力』がない人が、中心になってやると、上手くいかなくなります。これは、20年以上企業へのコンサルティングをしてきて、何度もそれを経験してきました。

 結局、ビジネスが成功できるかどうかは、関係者の力をどれだけ引き出せたかによるのです。関係者間でのコミュニケーションがしっくりいかないと、団結ができないですから、成果も出ません。

 ビジネスに長年携わってきた人なら、この点賛成してもらえると思います。


 それでは、もっと踏み込んで、コミュニケーションを成功させるカギとはなんでしょう?

 いくつかあるようですが、私は、その最も大事なポイントの一つは、自ら積極的に「聞き上手」になることだと思います。

 コミュニケーションいうと、一般的には、話したり、プレゼンをしたりすることを指します。つまりアウトプットすることが中心に考えられますが、実はそのアウトプットより大事なのは、インプットなのです。

 なぜかわかりますか?

 相手の状況、考え、また主張を正しく理解しないと、相互のコミュニケーションは、成り立たなくなるからなのです。

我々は、使えるリソース、つまりヒト、モノ、カネ、情報がきわめて限られている世界で生きています。その限られたリソースをフル活用して、限られた時間内で成果を出さなければなりません。

であるならば、今自分や周りの人が置かれている状況、問題点、そして許容範囲をしっかり把握しなければ、正しいアウトプットはできません。

これは当たり前のことです。例えば、事業計画を立てるのにも、その前提である仮説が間違っていたら、不正確な事業計画となり、使い物になりません。

仮説が間違える最大の理由は、正しい情報を得ていないからなのです。正しい情報を得られないのは、的確なインプット、要するに、関係者からいい情報を得る作業となる「聞き上手」ではないのです。

よって、物事、特にビジネスを成功させるポイントは、まず正しいインプットをすること、言い換えれば「聞き上手」になることなのです。


これは、あまり実践されていません。私が個人的に知る限りで、それを実践してきた人は、ワタミの渡邉美樹社長、ブックオフの坂本孝会長、ソフトブレーンの宋文洲会長、ファンケルの池森賢二前会長、イー・アクセスの千本倖生会長、住宅金融公庫の島田精一総裁、トヨタ自動車の渡辺捷昭社長、富士ゼロックスの小林陽太郎前会長、シダックスの志太勤会長、新潟総合学院の池田弘理事長、フォーバルの大久保秀夫社長です。

いずれもコミュニケーションの「超」達人であり、その結果として、組織の効果的なリーダーになられています。

 皆さんの周りにも、積極的に「聞き上手」になる努力をされている人がいると思います。彼らは周りから絶大な信頼を得ているはずです。