マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏やウォルマート創業者、サム・ウォルトン氏が出てくる前の全米一の大富豪で、「不動産王」と呼ばれた人に、「トラメル・クロウ」創業者のトラメル・クロウという人がいました。

トラメル・クロウ社は日本企業との不動産取引が多かったことから、同社の監査をしていた国際会計・経営コンサルティング会社(私の以前の勤務先)の推薦で、私は同社の顧問に一時期就任しました。

クロウ氏は、貧困な家庭に生まれ、苦学して夜間大学で会計・税務を勉強し、公認会計士(CPA)になりました。CPAとして、様々な不動産取引の税務申告を手伝う中、戦略的に節税をすることで、かなりの投資収益を増やすことを学び、会計・税務業務から不動産業に商売変えをし、短期間で大成功をおさめたのです。

クロウ氏は、彼の経営哲学をよく話してくれました。

「複雑な取引が急増するこれからの不動産業で成功するカギは、今まで業界に来なかったレベルの優秀な人材を獲得できるかどうかです。本物の人材は、お金では動きません。トップの人間性が決め手になります。ですから、私を信じて、うちに来てくれた社員に対しては感謝の気持ちで一杯です。これから、その感謝の意味で、もっともっと自分を磨かなければなりません」

その言葉通り、彼は、全米一(当時)の経営大学院、ハーバード・ビジネス・スクールをトップクラスで出た俊英をどんどん採用できたのでした。そんな優秀な人材が多くくるなんで、当時の不動産業界では、ありえない事だったのです。

そのため、一時期トラメル・クロウ社の最大学閥が、ハーバード・ビジネス・スクールOBになったほどです。

ところで、暗殺のきっかけとなったダラスでの晩餐会に、クロウ氏がケネディー元大統領を招待したことは米国でもあまり知られていません。彼は強力な共和党支援者でしたので。そのことをとても残念がっていました。「自分が大統領を殺したのも同然だ」と。

また、東洋の骨董品が大好きで収集していた親日派で、いつも日本のことが気になっていたようです。お会いする度に私に日本に関することを聞いてきました。

多趣味で、社交的なことが大好きでした。よく、何10万坪もある大豪邸の自宅で、毎週のようにパーティーを開催されていました。

私は当時近所に住んでいたこともあり、何度もそのパーティーに招待を受け、できる限り参加していました。

そのパーティーには、私も既に接触しつつあったジョージ・H・W・ブッシュ元大統領、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時、テキサス州知事)、ディック・チェイニー副大統領(当時、大手石油会社社長)、ジェームス・ベーカー元財務長官・国務長官、ローレンス・サマーズ元財務長官など色々な政財界の大物リーダー達が来ていました。

そのため、パーティーに出ることは、政財界における人脈構築において大いに役立ちました。

 それだけの大物とクロウ氏は大変仲が良かったのですが、彼がなんでそんなに親しくなれたのか聞いてみました。

「貧しい家庭に育ってここまでやってこれたのは、皆さんのお陰です。ですので、いつも感謝の念で一杯です。私は人に感謝すること以外何もできない人間ですから」

 当時全米一の大富豪でしたから、その言葉に私は感動しました。

「なんて謙虚で誠実な人なんだろう!」と。

そのパーティーに参加している大物達も、義理ではなく、本当にクロウ氏のことが好きで参加しているのが、彼らとのやり取りでよくわかりました。

「クロウさんの成功の秘訣はなんだったんですか?」

 私はある時不躾な質問を彼にいきなりしてしまいました。でも、真面目に答えてくれました。

「感謝しかありません。所詮皆さんの応援や助けがあっての自分ですから」

「それでは、あなたのように成功したければ、何に対しても感謝し続ければいいのでしょうか?」

「私はそうでしたから、感謝し続けていけば、運も良くなり、成功もできると思いますよ。何しろ感謝されて嫌な気になる人は一人もいないですから

 その素晴らしい話を聞いて、私もその日から一人ひとりに感謝できるよう努力を始めました。