よく昔、成功した経営者の多くが「うちは無借金経営ですから!」と誇らしげに語られていたのを思い出す。確かに借金しないである程度まで会社を成長させられたのは、立派であろう。

過去のほとんどの経営者は、お金を借りても失敗して会社を潰してきたからだ。それに比べたら凄いことには間違いない。

 しかし、「ベンチャーラッシュ時代」の21世紀においては、「無借金経営」は実は恥じるべきことなのだ。なぜなら、いつも自分の背丈で届くことしかしない経営であるため、急成長は望めないのだ。将来のことを考えていないことでもある。

つまり、それは、ベンチャー経営ではなく、中小企業経営なのだ。ベンチャーは、技術・製品・システム・サービス等において、まったく新しいものを世に送り出すため、新しく市場ができ、会社が急成長していく。

だから、その成長を支える先行投資としての資金も必要となる。

まったく借金なしで経営しているということは、先行投資していないことでもあるから、将来の成長も期待できないことになる。もし、その会社が新しい市場に参入しようとしていれば、急成長できないわけであるから、最初から参入後の熾烈な競争に負ける要因を積んでいることになる。

勿論、借りれるからといって、まったく必要もないのに様々なところから借金をしまくるのも問題ではある。しかし、私は、まともな金融機関が、貸してもらえるならば、借りておいて、必要な時のためにプールしておけばいいと思っている。

資金は必要な時には、集めるのに時間がかかるのみならず、集まりにくいものだ。そのため、ビジネスチャンスを逃す企業も多い。


米国では、普通、企業も個人も信用力アップのため、特に資金が必要でなくても、金融機関、特に銀行から借りては返すという作業を繰り返す。それによって「クレジット・ヒストリー」Credit History)という、お金を借りて返したことでの金融機関との過去の取引記録ができる。

その作業をきちっとやれば、つまりちゃんと期日通りに決められた額以上のお金を返し続け完済すれば、もの凄い信用力となる。そして、助かるのは、大して収入がなくても、いざという時、巨額の借り入れができるのだ。

今は、会社も安定していて、「無借金経営」が通せるかも知れない。しかし、経営のユニバーサル・ルールは、どんな企業もいい時ばかりでないということだ。

どんな大企業でも優良企業でも、いつか必ず行き詰る時が来る。残念ながら、事業というものは、経営者が管理できることばかりではない。阪神・淡路大震災のように、災害や不可抗力がいつ襲ってくるか、まったく予想がつかない。

その時のために、普段から、借りては返すという信用力をつけておくことは、「ベンチャー戦国時代」には必須なのだ。