今上場企業の社長は、村上世彰社長が率いる株式会社M&Aコンサルティングの投資ファンド「村上ファンド」(通称)に自社株が大量に買付されるのを恐れている。それこそ、業績にかかわらず、株式市場での株価によっては、M&Aのターゲットになるのではないかと戦々恐々としている。

大株主になられると、株主論理・権利をどんどん追求してきて、じっくりと経営に専念できなくなるのが困ると、多くの上場企業の経営者は言う。

 村上社長のやり方は、確かに強引なところもある。しかし、彼の基本的な手法は、株主利益を追求するための敵対的買収の考え方・戦略があるので、立場上、強引にしなければならないのだ。

そうすることを信じて資金を出してくれた株主やファンドの投資家が、彼のバックにいるからだ。

 村上社長の手法が適切かどうかはさて置き、通産省(現経済産業省)を辞めて、投資、つまり株式買付やM&Aのビジネスを始めて以来、彼の主張をずっと聞いてきて思う。村上社長は、「資本主義経済における株主を大事にする経営」を上場会社側に要求し続けている。

 欧米的発想からいくと、彼は会社側に当たり前のことを言い、要求しているだけだ。だが、長年「株主不在の経営」をしてきた日本の多くの上場企業にとって、すぐにその体質が変われない。であるから、狙われたらどう防御していくか、頭痛の種になっている。

「村上ファンド」の出現は「ベンチャー戦国時代」の象徴

 言えることは、「村上ファンド」の出現も、米国同様「ベンチャー戦国時代」に入ったことの象徴であり、自然の産物だ。

 これらは、何を意味しているのだろうか。

「村上ファンド」の動きを見ていると、今一度、本当の「資本主義経済とは?」を考えさせられる。

 これは、前々から不思議に思ってきた次の疑問を再度思い起こさせられる。

「なぜ、日本の上場企業の最高経営責任者(CEO)は命懸けで社運を賭けた戦いをしないのだろうか?」と。

 米国の上場企業の経営者の場合、一度CEOになったからには、業績をよくしなければ、問答無用で直にクビになる。

だから、解雇や事業の売却等々でドラスチック過ぎて非難・中傷の対象になるが、怯まず、己が信じる経営を続ける。

なぜなら、株主は普通の経営よりも、そのCEOならではのユニークな経営を期待しているからだ。でなければ、わざわざそのタイミングでCEOとして指名される意義がなくなるのだ。その分権限を持たされると同時に、責任も課される。

世界最大の航空会社、アメリカン航空のCEOを20年以上務めた、ロバート・クランデル氏と、「外食産業の神様」と言われた、ブリンカー・インターナショナル創業者、故ノーマン・ブリンカー氏と会食していた時のこと。あまり弱音を言わないクランデル氏がポロっと本音を語った。

「よく、報酬が高過ぎると叩かるけれども、上場企業のCEOをやるということは、命を擦り減らすことなので、寿命代と思えば、必ずしも高いとは思えないのだけどなあ…… CEOは、『ストックホルダー』即ち、顧客、社員、取引先、株主を満足させ、いい業績を出して当たり前で、そうでなければ、すぐにクビになる。また、『ストックホルダー』のために、一生懸命やっていても、突然、『ストックホルダー』から無実無根のことで訴えられる。もっと参るのは、必死になって競合他社との戦いに勝ち続けているのに、新興ベンチャー、例えば、サウスウエスト航空が急成長していたら、『何で人材や資金がもっと豊富なお前のところ(アメリカン航空)もそのくらい伸びないのだ!』と叱られ、CEOとしての責任を追求される。自分ながらよく20年も、大手上場企業のCEOが務まったなあと感心している。おそらく寿命は10年以上磨り減ったと思うが……」

 聞きながらずっと相槌を打っていたブリンカー氏が、すかさず言う。

「その通りだ!」と。

 意外だったのは、米国の大手上場企業のCEOが一番恐れていたのは、既存の大手競合他社ではなく、これから出てくるであろう新興ベンチャーだったのだ。理由は、株主は、もし新興ベンチャーの方が、将来性があると判断したなら、さっさと所有している大手企業の株式を売り、新興ベンチャーのに買い換えるからだ。お陰で株価はあっと言う間に下がる。

会社は「社会の公器」

 日本も「ベンチャーラッシュ時代」に入った今、「村上ファンド」を始め外資系ファンドも、急成長し好業績をあげている同業のベンチャー企業と比較し、株主からの資金を効果的に活用せず成長していないと判断した上場企業に対しては、容赦なく追求してきている。極端なケースはCEOや経営陣の退任要求だ。

 要するに、上場していようがいまいが、一度外部から投資頂いたら、経営陣は、会社は「社会の公器」になったことを自覚すべきだ。

つまり、既に、いつも「ベンチャー精神」を持って経営に当たらなければならない「ベンチャー戦国時代」に突入したことを肝に銘じるべきだ。

そのお手本になっているのが、マイクロソフトやデル・コンピュータのような元々の新興ベンチャー企業だ。

 日本でも、それを実践している経営者がいる。

ソフトブレーン株式会社の宋文洲会長は、同社の自身が保有する約10%の株式を「村上ファンド」に譲渡し、村上社長を社外取締役に招き入れた。また、社長職も、「株主資本主義」を貫くため、若手に譲った。正に、「社会の公器」としての道を徹底して歩もうとしているのだ。