コーポレートガバナンスは、「企業統治」と訳され、企業 の内部牽制の仕組みや不正行為を防止する機能を指す。「法令遵守経営」と訳されているコンプライアンスと同様、日本長期信用銀行、西武グループ、ライブドア等の不正取引・粉飾決算により、最近日本でもその重要性が認識されつつある。

元々、コーポレートガバナンスは早くから経済学でも扱われていた。

私も、テキサス大学経営大学院(ビジネス・スクール)で教えていた際、会社の経営陣(Management)とそのオーナー(株主)は、利害が違っている部分もあることを説いた「エージェンシー・セオリー」(Agency Theory)を使いながら説明していた。

会社経営において経営陣の最大の目的は、長期的に業績をよくし、利潤(利益)最大化を図ることである。しかし、雇用者、顧客、取引先、金融機関、株主等のあらゆる理解関係者、つまり「ステークホルダー」stakeholders)と契約関係にあり、誰の利害を最優先させるかで争点となる。

これはとりもなおさず、「会社は誰のためのものか」の議論でもある。

私は、契約関係、また、実質的な観点から見て、「会社はステークホルダーのもの」と解釈するのが正しいと確信している。

しかし、また様々な主張もあるだろうが、「資本主義経済」における「株主資本主義」の論理から言えば、「会社は株主のもの」という考え方が欧米では一般的に受け入れられている。

従って、欧米では、株主のために、株主の代理として、コーポレートガバナンスを厳しく公正に実施していくことを、取締役の義務とされている。

日本におけるコーポレートガバナンスの現状

日本でも取締役会 が各種リスクを把握して制御するリスク管理体制 、つまり内部統制システムを構築すべきとされている。それは取締役の「善管注意義務 」と「忠実義務」(商法 254条3項)の内容とされている。

要するに、この代理業務を怠ったことから、会社に損害が発生した場合に、取締役(会)は義務に違反したとして損害賠償責任 を負うことになる。その典型的な例が、大和銀行(当時)のニューヨーク支店における不正取引にからむ損害賠償請求事件だ。

欧米と違い、日本では企業経営の適正化を担うお目付け役として、更に監査役がおかれている。企業不祥事のたびにその権限強化が試みられてきた。

残念ながら、経営陣に依存する日本の「監査役制度」には、限界がある。そのため、米国の企業統治機構にならった各種委員会(監査、報酬、任命)等設置会社もコーポレートガバナンスを意識して立法された。

コーポレートガバナンスの強化は勝つ要因

 私も、米国で上場企業の社外取締役をやった経験がある。一度取締役を引き受けたら、コーポレートガバナンスを徹底的にやらなければならなかった。そうしなければ、万が一、経営陣や他の取締役が不正をしていた場合、取締役として容赦なく株主から訴えられる。とても、緊張した期間だった。

 それを考えると、上場企業の不正が相次いだ日本でも、これから本格的なコーポレートガバナンス時代を迎えるだろう。今のままでは、株主や金融機関が黙っていない。

現実に、上場企業は、株主の強いプレッシャーから、執行役員制度を導入し、社外取締役を向かい入れなければならない状況になりつつある。

 逆に、コーポレートガバナンスが徹底していない上場企業は、どんなに業績がよくても、信用されないことから、株主や金融機関離れが始めるのは時間の問題だ。

 ベンチャー企業でも、早い段階からコーポレートガバナンスを徹底している経営者は、投資・金融関係者の評価は極めて高い。

つまり、投資・金融機関の力を借りて、本当に急成長する気があるならば、まず、コーポレートガバナンスを強化すべきだろう。これが「ベンチャー戦国時代」での、勝つ要因にもなるのだ。