ライブドアの堀江貴文前社長と楽天の三木谷浩史社長は、ほぼ同じ頃に起業し、同様のインターネット関連事業を展開し急成長してきた。そんなことから、両者はよく比較され、インターネットベンチャー若手経営者というくくりで、同じように見られることもしばしばあった。

現に、堀江氏が粉飾決算疑惑で捕まった時、ほとんど人が「次は、三木谷社長だ!」と思ったに違いない。

しかし、両者は、そもそも起業するきっかけや理由がまったく違っていた。堀江氏は東京大学を中退してからの、成り行き的なのが主な要因なのだ。

一方、三木谷氏は、日本興業銀行から企業派遣で、ハーバード大学経営大学院(ビジネス・スクール)に留学させてもらい、経営管理修士号(MBA)を取得した。エリート街道まっしぐらになるところだったのだ。  

ところが、阪神淡路大震災で叔父と叔母を失い、悲惨な現地を見て、人間の命の儚さを知る。いつ終わるかわからない人生であれば、己が一番信じ、生きがいを感じる人生、つまり起業の道を選んだのだ。要するに、三木谷氏の場合、すべてを捨てて起業に邁進したのだ。

三木谷氏は、プロのサッカーチーム、現ヴィッセル神戸 リーグ )と現東北楽天ゴールデンイーグルス (パリーグ)を買収し、純粋なスポーツに「儲け主義」を持ち込んだと見られ、非難されてきた。

しかし、忘れてはいけない。そもそも、歴史的にプロスポーツというのは、れっきとした儲けを目的として成り立ってきたビジネスなのだ。儲けなくて、潰れてしまっては元も子もなくなってしまう。一番困るのは、選手であり、顧客であるファンだ。

その点、米国はファンを始め、関係者は、完全に理解している。

従って、オーナーが変わることに何の抵抗もない。それよりも、いい選手を確保・維持するため、ビジネスとしてしっかり運営してもらいたいと考えている。儲けて、頑張った選手により多額の報酬を出して、更に良い成績を残してもらえるようインセンティブを与えてもらいたいと望んでいるのだ。

 ここで考えてもらいたいのは、今まで、野球やサッカーで代表される日本のプロスポーツビジネスは、それほど儲けてこなかった。純粋なビジネスと違って、真剣に利益を追求してこなかった。どちらかと言うと、宣伝目的・社会貢献事業的に運営されてきた。

ここに来て、楽天の参入により、今までのプロスポーツビジネスに対する古い考え方を根本的に変えようとしている。サービス業として徹底して顧客へのサービスを充実させようとし始めた。だから彼は一斉に非難・中傷を浴びている。当たり前と言えば当たり前だ。今まで彼のようなオーナーが出てこなかったことが、逆に不思議なくらいだ。

考えられるとすれば、高度経済成長やバブル経済で、他で儲けていたので、誤魔化しが利いたのだろう。

 やはり三木谷氏は、根っからの起業家だ。このような前例やしきたりにまったくとらわれないからだ。どんなに非難されてもめげず、己が信じる道を進もうとしてる。この点は、ソフトバンクの孫正義社長も同じだが。

 心ある経営者は彼の将来性と経営力に気がついている。

しかし、三木谷氏に経営者として限界がある。

何人の人がそれを見破っているだろうか。

 あまりにも、効率と効果を狙い過ぎて、「企業は人なり」という経営の原点を、三木谷氏は忘れている。これは、実は、合理主義を追求するインターネットベンチャーの大きな弱点でもある。

 であるから、もし、楽天のような若手経営者による新興インターネットベンチャーと戦うためには、「人間主義経営」を徹底すればいいのだ。

「人間主義経営」とは、具体的には、社員、顧客、取引先、株主、つまり「ステークホルダー」を大事にすることだ。

 残念ながら、楽天も含めて、若手が率いる今のインターネットベンチャーは、急成長し続けるのに必死で、そのための最新の技術やシステムの導入とM&A活動並びに新規事業確立をどんどん推し進めている。であるから、なかなか人材の確保と維持まで、手が回っていない。一番大事であるにもかかわらずだ。

 戦いの勝敗のカギとなるのは、人材力と団結力であることを銘記されたい。