資本主義経済の論理からいくと資本家が一番強い。

私も、米国のビジネススクールで教えていた際、経済学の「エージェンシー・セオリー」を使って、そのことを理論的に説明していた。資本家とは、一般的に株主を意味し、英語では「シェアホルダー」と言われている。

一方、企業経営の観点から違う。資本家である株主も大事だが、顧客、社員、取引先、つまり会社の事業活動を支えている関係者も同じくらい大切だ。これら関係者を「ストックホルダー」と呼ぶ。

「ストックホルダー」を「シェアホルダー」同様大事にすることは、あたりまえのことだ。米国でも十分理解されている。

なぜなら、会社を支えている「ストックホルダー」が頑張らなければ、会社の業績はよくならない。だから最終的には、低株価、更に少ない配当、もしくはゼロ配当という結果になって、「シェアホルダー」も粗末に扱うことになるのだ。

しかし、日本においては、残念ながら過去この論理は当てはまらない状況が続いた。と言うのも実はあまりにも「シェアホルダー」を軽視してきたからだ。

それが証拠に、欧米に比べると、信じられないくらい配当額少なかった。例え儲かったとしても、配当しなかった大手上場企業も多かったのだ。その上株価もそれほど上がらなかった。投資家にしてみればたまらない。

先日、ロンドンに行った際、ある英国人投資家から皮肉を言われた。

「15年前に日本の大手上場企業11社の株式を取得したが、配当は欧米の企業に比べると十分の一以下だし、未だに株価も低迷している。日本企業に投資した分、もっと早く止めて、欧米企業に投資すべきだった。本当に日本の大手企業と株式市場にはがっかりしたよ! 日本人であるあなたはどう思う?」と。

 私は言葉に詰まった。さすがに、言い返せなかった。

「あなたは大勘違いしていますよ! 日本は欧米のような本当の意味での資本主義経済ではありませんから…」と。

 つまり、彼は、日本の株式市場に上場されている大手日本企業の株式を買うにあたって、大きな仮説の間違いをしていたのだ。

 当時日本の株式市場を欧米並みの資本主義経済に基づいて、運営されていると勘違いしてしまったことは、彼が国際的な投資家として失格だったことを意味する。

私は米国に20年いて、ビジネスのやり取りから、日本を純粋な資本主義経済国だと思ったことは、ただの一度もなかった。返って、中国や旧ソ連以上に「非」資本主義経済国なのだ。ある意味では社会主義経済国と言ってもいいくらいだ。

 過去の話は別として、このように日本は今まで散々海外の投資家を裏切ってきた。賢い海外の投資家は、いつか日本も欧米に近いルールで、企業や株式市場が運営される時代が来ると判断し、ずっとその時を待っていた。私の友人達もそうだ。

「ベンチャーラッシュ時代」である今、ついにその時に突入したのだ。

従って、外資系投資銀行・証券会社、「ハゲタカファンド」、プライベート・エクイティー等々一斉に投資活動を始めた。と同時に、「村上ファンド」で代表される「敵対的買収」「株式の大量取得」などの欧米型投資手法展開する国内投資家まで現れた。

 今まで、株主を大事にしてこなかった経営、要するに「株主不在の経営」をしてきた上場企業は、窮地に立たされている。

 しかし、考えてみれば、本来あるべき資本主義経済や株式市場になっただけで、大騒ぎすることではないのだ。

要するに、過去、資本主義経済の下での「株式会社」を名乗りながら、主役たる株主を隅に追いやり大事にしてこなかったツケを、急に今払わされているだけなのだ。

 であるから、上場企業の経営に携わる者は、今後本来あるべき「革命的危機感」を持って、会社経営にあたるべきだろう。でなければ、その経営者や経営陣は、失脚することは間違いない。現実に今それが起きているのだ。

これは、「株主を大事にしない企業は株主に滅ぼされる」という、正に厳しい「原因結果の法則」と見てもらいたい。