大友清さん(仮名)は、大学卒業後大手銀行に入社。営業を二年間経験した後、念願の国際金融部門に配属された。そこに三年間勤続後、社内留学試験をパスし、夢だった米国ビジネススクールに二年間派遣されることになった。特に金融学で著名なビジネススクール、ウォートンスクール(ペンシルベニア大学経営大学院)に合格し、無事優秀な成績で経営管理学修士号(MBA)を取得した。

 しかし、喜びもつかの間、せっかく猛勉強して帰ってきたが、待っていた新配属先は英語やMBAに無縁の国内法人営業部だった。ビジネススクールで一緒に学んだ米国人やアジア・ヨーロッパからの留学生は、世界有数の金融機関の第一線で活躍している。

 そのまま日本の銀行にいても金融のプロとしての将来はないと判断した大友さんは、すでに外資系金融機関に転職していた先輩やビジネススクールでのクラスメイト(米国人)に相談してみた。それをきっかけに、投資銀行業務でかなり経験のあるクラスメイト三人が設立したばかりの投資銀行の最高執行責任者(COO)にならないかと誘われた。世界金融の中心地ニューヨークで、本格的な投資銀行業務を行うことは、自分の能力を試す絶好のチャンスだと実感した大友さんは、早速ニューヨークに渡った。

 最初の仕事は、投資資金を集めることだった。今まで投資家との接点がほとんどなかった大友さんにとって大型資金調達は不可能に近い。幸いにもパートナーとなるビジネススクールのクラスメイト三人は投資業務での実績と人脈をそれぞれ持っており、大口出資先を三カ月で探してきた。それらの合計額は一〇億㌦をゆうに越した。

 出資先のほとんどがニューヨークに本社を置く有名投資家や投資グループだった。三人のパートナーは、おのおのの投資家を何度も訪問し、プレゼンテーションを行った。投資家グループのほとんどがニューヨークに本部を置いていたため、コミュニケーションはかなり効率的にできたとのこと。

 新投資銀行での業務の中心となったのは、ハイテクベンチャー企業をターゲットにするM&A(買収・合併)だった。始めたばかりの投資銀行業務だったが、三人の米国人パートナーのニューヨークでの強力な人的ネットワークもあり、有望なハイテクベンチャー企業の財務情報がいろいろな人を通じてどんどん入ってくる。その情報を使ってM&Aのターゲット先を絞り込むことができる。ちなみに場合によっては敵対的買収を行うこともあるという。買収資金の調達がスムーズだったこともあり、創業後1年で18社の買収に成功した。

 大友さんによると、金融・証券関連事業を始める場所としてニューヨーク、特にウォールストリート近辺がベストで、その特典を次のように指摘している。


(1) ニューヨーク証券取引所や(本部はワシントンDCだが、実質上)米国店頭株式市場(NASDAQ)があることから、その関連ビジネスや専門家が全米の中で最も多く、金融・証券ビジネスに必要なヒト・モノ・カネ・情報が他地域と比べものにならないほど集積している。

(2) コロンビア大学、ニューヨーク大学、ニューヨーク州立大学、ニューヨーク市立大学、エール大学、プリンストン大学、ペンシルベニア大学など近隣に金融・証券に強いプログラムのある大学が多いため、金融・証券関係の優秀な人材を獲得しやすい。

(3) 金融機関(銀行・投資銀行、投資グループ、保険会社など)の本社や専門弁護士・会計士・コンサルタントなど金融・証券ならびに付随する専門家が多い。そこからスピンアウトした人材群によるベンチャー企業がどんどん育っているため、新たなビジネスチャンスが次々と生まれている。

(4) 世界中から金融投資資金と投資担当者がニューヨークに集まっており、大友さんのケースのように金融に関するベンチャービジネスへの資金は調達しやすい。

(5) 金融・証券ビジネスに関する専門家(金融・証券コンサルタント、金融・証券アナリスト、金融・証券評論家、金融・証券専門会計士、金融・証券法専門弁護士など)が圧倒的に多いため、彼らとの人的ネットワークが作りやすく、また彼らからのアドバイスや支援も受けやすい。

(6) 日系や米国以外の金融機関の米国本部もニューヨークに集中していることから、国際金融に関するヒト、モノ、かね、情報も得やすい。

 

私自身も25年近く前に金融に強い大手国際会計・コンサルティング会社の本社(ニューヨーク)に勤務していたことがあるが、金融に関するヒト、モノ、カネ、情報の多さには本当に驚かされた。ニューヨーク以外の地で金融・証券関連ビジネスを起こすことは、大きなハンディになると思ったくらいだ。

 また、当社は現在国際企業コンサルティング会社ではあるが、将来は国際的な投資会社を作ることを考えており、その際は迷わずニューヨークに本部を置くだろう。


三つのポイント


ポイント1

金融・証券ビジネスに必要なヒト、モノ、カネ、情報が集結している

ポイント2

金融ベンチャーも多く、新たなビジネスチャンスが多い

ポイント3

世界中から金融投資資金が集まっていて、資金調達しやすい