日本でソフト開発会社を起こしたが、倒産・自己破産した大山等さん(仮名)は、ある先輩経営者から「君はもう二度と日本では起業できないぞ」と言われショックを受けた。  

と言うのも、その会社を起こす前に、「失敗してもやり直そう」「成功するまでやり続けよう」と心に誓っていたからだ。「アメリカのシリコンバレーは、世界中のITベンチャー企業経営者にとって天国だ。

やる気といいアイデアがあれば、失敗しても何度でもやり直せる支援体制と環境が全米一整っている」。たまたま買ったビジネス誌の記事を読んで大山さんは即刻アメリカで起業することを決めた。親、兄弟、親戚、友人などほとんどの人からは大反対されたが、それでも必死に頼み込んで2000万円近くをかき集め、シリコンバレーに渡った。

 シリコンバレーに着くとすぐに日本で紹介されたベンチャー専門弁護士に会い、ソフト開発会社を1000ドルで設立した。ちなみに、アメリカでは通常1000ドル(約一二万円)程度で株式会社がつくれる。

シリコンバレーでは、会社設立後すぐに優先株発行による第三者割当増資を行い、エンジェルやベンチャーキャピタルから200万~300万ドルのまとまった投資を受けることが多い。

 大山さんは幸運にも、その弁護士の紹介で、スタートアップのベンチャー企業を対象にインキュベーション事業を行っている会社内に間借りすることができた。ベンチャー専門の弁護士やコンサルタントは、その地域内のインキュベーション施設・企業をよく知っているだけではなく、それらのアドバイザリー・ボードメンバーや顧問をやっていることが多い。早い段階で彼らと親しくなり、いろいろなアドバイスや支援を積極的に受けるのは得策だ。

 シリコンバレーはIT関連企業支援専門の弁護士、コンサルタントの数とインキュベーション施設・企業が全米で最も多い地域だ。インキュベーション施設・企業は四〇以上もある。それらの支援を受ける目的で、全米から若き起業家がシリコンバレーに来る。

 大山さんは、入居したインキュベーション施設のマネージャーからエンジェルに紹介され、入居後2カ月で150万ドル出資の申し出を受けた。「棚からぼた餅」とはこのことだと大山さんは言う。その10カ月後、そのエンジェルが大山さんにベンチャーキャピタルを紹介し、今度は500万ドルの出資を受けた。日本であれほど資金繰りに苦労したことを思うと、大山さんは驚きを隠せなかった。

 エンジェルやベンチャーキャピタルは、「国際的に利用できる連結決算対応の経理ソフトを会計事務所の指導の下で開発する」というアイデアのみを評価したのではない。大山さんは、日本では競合との戦いで製品完成が遅れたことが敗因だったため、今回はアウトソーシング(戦略的パートナー)を積極的に活用して、効率的かつスピーディーにソフトを完成させるビジネスモデルを作った。すなわち「失敗の経験を生かす」姿勢が評価されたのだ。

 こうして大山さんの会社は、2000年2月の設立から一年半たった時点で月間10万㌦を売上、月次ベースで黒字転換している。

 ここでなぜITベンチャーを起こすならシリコンバレーを選ぶべきかを説明する。


(1) スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などの全米でもトップクラスの優秀な技術者やMBA取得者を雇える。優秀な在学生をアルバイトとして安く雇い、卒業後正社員として働いてもらえる可能性が大だ。

(2) IT関連への投資がトップの地域で昨年の全米でのベンチャー投資の三分の一(投資額で評価すると)がシリコンバレーで行われた。投資家が多く、投資案件の奪い合いもあるほどだ。

(3) IT関連企業が集積しているため、大手・ベンチャー企業間での資本・業務提携が非常に盛んだ。それによってベンチャー企業は急成長したり、短期間での株式公開も可能となっている。

(4) IT関連企業、大学、研究所、ITコンサルタント、技術者、研究者が多く、それぞれの質が高いため、IT関連の最新情報が得やすい。

(5) ベンチャー支援専門の弁護士、会計士、コンサルタント、大学教授、投資家が他地域に比べ多く、起業家は起業に関する支援が受けやすい。

(6) IT関連ベンチャーのコミュニティーが完全に出来上がっており、IT関連のヒト・モノ・カネ・情報が一体化しているため、スピーディーで効果的な事業展開ができる。買収・合併による事業拡大戦略が有効かつ常識であり、実際にその効果も大きい。起業家にとっては、ダイナミックでエキサイティングな地域でもある。


 私もある高度な圧縮画像技術を開発し、シリコンバレーで起業したベンチャー企業の会長をしている。その経験を紹介すると、日本やアメリカのほかの地域では考えられないような優秀な経営陣と技術者が短期間で得られた。また創業前後の段階でベンチャーキャピタルから投資の申し入れがあり、社長(CEO)ともども驚いた次第だ。



三つのポイント


ポイント1

スタンフォード大学やカリフォルニア大学の学生など優秀な人材を雇える

ポイント2

IT関連企業への投資がトップの地域で、投資が得やすい

ポイント3

IT関連のコミュニティーができており、事業展開を加速できる