海外で働くことを夢見ていた大木信也さん(仮名)は、日本で五年間サラリーマンとして勤めた後渡米し、現地の旅行代理店に就職した。その会社が永住権のスポンサーになってくれ、入社4年という短期間で永住権を取得することもできた。
そろそろ転職を考え始めていたあるとき、その旅行代理店の日本人オーナーから、大木さんにその会社の買収はなしが持ちかけられた。オーナーは、高齢で病気がちなことから、もうそろそろ引退したいと言う。オーナーは大木さんの人柄や働きぶりが大変気に入り、会社経営を引き継いでもらいたいと考えたのだが、大木さんは悩んだ。
問題は、大木さんと二人の日本人女性を除いた14人の社員が、全員アメリカ人であることだった。つまり、彼にはアメリカ人をマネジメントする自信がまったくなかったのだ。
実際に大木さんには入社以来、アメリカ人社員から「アメリカのことを知らなすぎる」「英語が下手だ」などという理由で、バカにされることがよくあった。よりによってそんな自分が、アメリカで会社を経営することなど、絶対不可能としか考えられなかった。
知人を通じて相談に来た大木さんに、私は「右腕になってくれそうなアメリカ人、もしくはアメリカ人の管理が得意なパートナーを探すように」とアドバイスをした。
彼のような日本人経営者がアメリカで成功するためには、やり手のアメリカ人(もしくはアメリカを熟知した)パートナーが必要不可欠だ。言うは易しだが、問題はそのようなパートナーをどうやって見つけるかだ。有能なアメリカ人なら、パートナーなしですでに自分でビジネスをやっているだろう。
大木さんには、まず彼が心から信頼でき、旅行業が分かり、そのうえパートナーとして応援してくれそうな人が身近にいないかどうか確認してもらった。そこで大木さんは、現在の会社で働くことを勧めてくれた友人のアメリカ人、ジェフ・トーマスさん(仮名)を思い出した。アメリカに来た直後、人脈づくりと職探しのために参加した地元の日米協会主催のパーティーで知り合った人だ。彼は六年間日本に滞在し、ホテルで働いた経験があった。日本人女性と結婚しており、日本語も上手に話せた。
思い立ったらすぐに行動に移す大木さんは、その場でトーマスさん夫妻に電話をした。トーマスさんはその当時高級ホテルのマネージャーをしていたが、もっとチャレンジングな新しい仕事をちょうど探し始めていたところで、すんなりと大木さんのビジネスパートナーとなることが決まった。
私も入って話し合った結果、大木さんは新会社の八〇%の株を持ち、社長兼CEO(最高経営責任者)となり、トーマスさんには20%の株を持ってもらい、COO(最高執行責任者)として、特にアメリカ人社員の管理を中心にやってもらうことになった。その二人三脚の経営は非常にうまくいき、二人が新しいオーナーになってから4年以上が経った今、売上規模は三倍近くになっている。
そこで、「強力なパートナーを獲得する」貯めの方法を紹介する。まず、どのような人をパートナーにするべきかだが、次の10のポイントは大事な判断基準になる。
(1)互いに信頼し合える
(2)自分と相性が合う
(1) 自分にない(起業で必要な)スキル・コミュニケーション能力・ノウハウ・知識・経験・人脈・資金などを持っている
(2) 起業の目的(経営理念)が共有できる
(3) 社員(特にアメリカ人)の管理が上手である
(4) 人格者である
(5) 素直である
(6) 起業に対してやる気がある
(7) 努力家である
(10) 客観的に判断ができる。
これらの条件を全部満たすパートナーを探し出すことは、実際にはかなり難しい。したがって、現実にはこれだけは譲れないという最低基準を自分なりに設けることになるだろう。かといって、安易な妥協は禁物だ。
さらに、パートナーの見つけ方のポイントを以下に挙げてみる。
(1) 事業に必要なもの(スキル・ノウハウ・知識・経験・人脈・資金など)のうち自分にないものを明確にする
(2) (1)の自分にないもののうち、外部の人(専門家)を利用すれば済むのか、内部(社内)の人が持っていなければならないのかを明確にする
(3) (2)で明確になったことをもとに、パートナー候補を探す
(4) 探す際は、信頼できる人から候補者を紹介してもらう
(5) 積極的にいろいろな集まりに顔を出し、信頼できる人と情報のネットワークを広げる
(6) 候補者が見つかったら、先に述べたパートナーを選ぶ10の判断基準を参考に慎重に評価し選び出す
(7) 評価・選択の際は、信頼できる先輩経営者や専門家(会計士、弁護士、コンサルタントなど)といった第三者からの客観的評価・意見を参考にする
日本人がアメリカで起業する際に、成功するための最も大事なポイントは、パートナー選びであると私は確信している。パートナーを間違えることは、事業運営においての致命的な失敗であり、修復困難な問題に発展していく。読者の皆さんも、会社の将来を考えたうえで、慎重かつ客観的に適任者を選んでもらいたい。
三つのポイント
ポイント1
アメリカ人もしくはアメリカを熟知したパートナーは絶対必要
ポイント2
パートナーとしては、自分にないものを持つ人を選ぶ
ポイント3
候補者を探す際には、信頼できる人に紹介してもらう