大学を出て、ソフト開発会社で8年間ゲームソフトの開発を手がけてきた山口明さん(仮名)は、独立することを決め、会社を設立しようとしたが、様々な設立費用を考えると、かなりかかるので、頭を抱えた。
「新しいタイプのゲームソフトの開発をしたい」と目を輝かせる山口さんに、私は、アイデア段階ではなかなか資金が集まらない日本を脱出して、アメリカで起業することを提案してみた。その段階で創業に使える資金として500万円程度しか準備できていなかったからだ。アメリカでは、1000ドルの資本金で株式会社を作り、設立費用も大してかからないことを知り、彼はアメリカでの起業を決意した。
行動力抜群の彼は、反対する新妻を連れて二カ月後にはアメリカに渡っていた。弁護士、会計士からアドバイスや支援を得て、1000ドルの資本金で会社を設立し、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。その後、英文の事業計画書を2カ月かけて作成した。
そこで、ベンチャーキャピタル八社を紹介したところ、決して上手くない英語であったが堂々とプレゼンテーションをし、そのうちの三社から合計350万ドルの出資を得たのである。
山口さんは、その資金で有能な最高運営責任者(COO)、最高財務責任者(STO)と、三人のアメリカ人をヘッドハントした。今、試作品の仕上げと会社の日々のマネジメントに追われている。
ここで、日米で起業する際の違いについて説明する。
もし、山口さんが、アメリカではなく日本で起業しようとしていたら、アイデアだけでマネジメント経験のない彼の事業に出資する投資家を見つけるのは難しかっただろう。日本では、そこまでリスクをとって支援しようとする投資家はまだまだ少ない。
さらに、当初株式会社設立のための十分な資金がなかったことから、山口さんは、まず株式会社設立のための必要な資金(1000万円以上)集めから、この日本で始めなければならなかったはずだ。ビジネスモデルや製品が不完全なことから、資金調達は難しく、会社設立に相当な時間をかけざるをえなかっただろう。
また、たとえ運よく資金調達ができたとしても、スタートアップ段階であることから考えれば、日本のベンチャー投資状況から判断しても、最初から350万ドルもの大金はまず集められなかったであろう。おそらく、1億円集められればラッキーだ。
また、山口さんは、弁護士と会計士のアドバイスを下に、アメリカでの起業することのメリットを最大限に生かしたといえる。その例がストックオプションを最初から導入したことだ。その結果、要となるポジションに、早い段階で有能な人材を確保できたため、日本で会社を経営するのとは比べものにならないくらい、スピーディーな展開・経営ができることになった。
さらには、ほとんどのビジネスにおいて、アメリカの市場規模が日本に比べて二倍以上となっていることもチャンスを大きくしている。単純にはアメリカの人口が日本の二倍であること、またアメリカの国土が日本と比べものにならないほど広いことに由来する。従って、同じ苦労をして起業するならば、その成果も大きく出るアメリカのほうが効率がよくなる。
ビジネスの世界戦略上から見れば、アメリカで起業する大きなメリットは、成功すれば世界中の人々が注目している市場であるだけに、世界的な知名度を確立することにもつながる。
また、一つ忘れないでほしいのは、経営者がアメリカに常時いなくても、トップマネジメントとして米国企業を経営することは可能であるし、アメリカで株式公開もできることだ。
ぜひ挑戦してみてほしい。
日本でも、今ベンチャー企業に追い風が吹きつつある。東京証券取引所の「マザーズ」「ヘラクレス」(旧ナスダック・ジャパン)の開設によって、従来の店頭市場以外に、いきなりベンチャー企業向けの株式市場が二つもできた。
アメリカに比べると額は少ないが、ベンチャー企業が発行する未公開株式に投資するエンジェルやベンチャーキャピタルも出てきている。従来なら相手にされなかった技術やアイデアにも投資家の目が向けられるようになった。慌てて資金を集め、スタートアップ起業に投資を始めたベンチャーキャピタルもある。ベンチャー企業向けの投資資金が増加し、アメリカで起こっている「ベンチャー・マネー・バブル」に近い状況になりつつある。
そのような背景から、「日本でもアメリカ並みの資金調達や支援獲得が可能になりつつあるのに、なぜ今アメリカで起業すべきなのか?」との質問をよく受ける。
日米間の差が縮まってきているのは事実であるが、それでも、私は今でもアメリカのほうがずっと起業しやすいと感じている。その理由として、アメリカでは一度や二度の失敗では、敗北者と見なさない心の広い「起業風土」が根付いていることが挙げられる。この敗者復活を奨励する価値観はアメリカならではのものだ。日本に同様の「起業風土」が定着するには、かなりの時間がかかるだろう。
三つのポイント
ポイント1
日米間の差が縮まってきているのは事実
ポイント2
それでもアメリカのほうが起業しやすい
ポイント3
事業展開のスピードもアメリカのほうが早められる