既にアメリカでの起業が基本的には難しくないことを、さまざまな実例を通して説明した。これからは、さらに一歩踏み込んで、アメリカにおける起業成功の真髄を、実例から学び実践で生かしてもらうためのアドバイスをしていきたい。

 起業で成功するために最も大事なことの一つはそのタイミングだ。すばらしいアイデアや技術を持っていても、また優秀な経営陣でもタイミングが悪いと、結局うまくいかない。

 州立大学のコンピュータ学部で講師をやっていた森本啓太(仮名)さんは、州の予算カットのため、突然解雇された。他の大学での雇用のチャンスを探ったが、まったくダメだった。彼から話を聞いて、彼に起業家としての資質があると直感した私は、タイミングをみて、起業することを勧めた。

 森本さんは、どのタイミングで起業したらよいのか逆に詰門してきた。私に分かっていたのは、その時は最悪のタイミングだったことだけだ。というのも、その州の経済はどん底で、資金調達がまずできない状況だった。

 そこで、資金調達市場がよくなるまで、アルバイトをしながら、しっかりした事業計画書を作るよう助言した。彼はウエイターをしながら、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)事業を立ち上げるためのビジネスモデルを構築していった。

 その約一年半後、徐々に景気が回復し、その地域にインターネット関連ビジネスに特化して投資するベンチャーキャピタルが急増した。たまたま私もその地域のベンチャーキャピタル協会の理事となったことから、できたてのベンチャーキャピタルより、インターネット関連ベンチャー企業を紹介してほしいと依頼を受けた。いよいよ時機到来と森本さんを紹介した次第だ。

 もりもとさんは、IPS事業の事業計画書を完成させ、設立間もない三つのベンチャーキャピタルにプレゼンテーションを行った。設立したばかりなので、投資資金は豊富にあった。

 その結果、森本さんは、創業前に二社から合計170万ドルの出資を受けることができた。アメリカの景気回復も追い風となり、彼の事業は急成長、四年間で1000万ドル近くの売り上げ、150万ドルの純利益を稼ぎ出した。その後、大手電話会社に5000万ドルの第三者割当増資を引き受けてもらい、さらに豊富な資金を得た。

 もし、彼の事業立ち上げが、数カ月遅れていたら、まずベンチャーキャピタルから出資してもらえなかっただろうし、また、大手電話会社による増資引き受けもなかったであろう。

 面白いことに、あるアメリカ人が森本さんに遅れること一年で同様の事業を始めようとした。彼のほうが、森本さんより業界での実績もあり、総合的に勝っていたようだが、結局事業を始めた時期が遅かったため、協力者や資金が集められず、続かなくなった。

 インターネット関連事業では、次々と新しいアイデアやビジネスモデルを持った起業家が参入してくるが、一番手であるかないかで、その後の勝敗が決まることが往々にしてある。わずかなタイミングの差が、残酷なほど勝者と敗者を決定的にする。タイミングを誤ったために、素晴らしいアイデアにもかかわらず注目されずに消えていくベンチャーが数知れずある。

 21世紀は今まで以上にスピードが起業成功のカギになる。マイクロソフト、インテル、デル・コンピュータ、スターバックス・コーヒーなど超優良ベンチャー企業の成功の秘訣は、斬新なアイデアと企画、卓越した経営能力はもちろんだが、起業以来絶妙なタイミングで事業展開してきたことである。

 アメリカの起業家は、タイミングを非常に重視し、そのためには、取り組んでいることを途中で投げ出すことも往々にしてある。マイクロソフトのビル・ケイツやデル・コンピュータのマイケル・デルが、起業のために一流大学を中退したのは、有名な話だ。

 現実の「今」という時に、何が一番大事なのか、瞬時に価値判断・価値創造・取捨選択し、大胆な決断ができることも、成功に不可欠な要素なのだ。

 私はアメリカで起業するタイミングを計るのに、次の3つの基準を満たすことを条件にしている。

 (1)起業したい事業の市場が確実に成長できることが検証できた時点

(2)まだ、誰もやっていない事業であることが確認できた時点

(3)事業のビジネスモデルならびに収益モデルが、大手資本が参入してきたとしても、崩れずに維持でき、大手資本に勝てることが客観的に証明できる時点

 10年以上アメリカできぎょうの支援をしてきたが、これらの3つの基準を満たしたタイミングで起業した事業は、例外なく成功している。逆にいうと、アメリカでの起業において確実に成功したい場合、これら三つの基準を満たしているかを確認することを勧める。

 その上で、起業のプロ(同じ業界で成功した起業家、エンジェル、ベンチャーキャピタル、起業コンサルタントなど)から起業するタイミングのアドバイスを求めることも忘れてはならないことを付け加えておく。

 何事につけて客観的視点を忘れないことが、経営者の心構えの一つである。

三つのポイント

ポイント1

まず事業の成長性や優位性を検証する

ポイント2

資金調達しやすい状況かどうかを見極める

ポイント3

何が一番大事か、瞬時に大胆な決断をする