アメリカでゲームソフト会社を経営していたAさんは、急激な価格競争が始まったことから、数年後には儲からなくなると予測し、会社を売ることにした。そこで、あるパーティーで知り合ったアメリカ人弁護士に相談したところ、専門が企業買収で、数々の会社売買を手伝ってきたという。とりあえず、その弁護士に買い手を探すよう頼んだところ、すぐに見つけてきた。Aさんは、彼を有能な弁護士だと信用し、交渉を一任したうえで、契約書作成料・仲介料の一部として、事前に一五万㌦を支払った。

 その後、契約はまとまり、すべてうまくいたかのようだったが、支払予定日になっても、買い手は現れなかった。次の日に弁護士と買い手に電話したが、誰も出ない。すぐに調べたところ、弁護士と買い手(会社)は、弁護士におカネを渡した同じ日に、移転していることが分かった。しばらくして、弁護士と買い手が共謀したことが発覚して、Aさんはがく然とする。

 アメリカの経営者にとって、会社を売ることは失敗の部類に入らない。業績が落ち込んでどうしようもなくなる前に、次の起業を視野に入れて、会社を売ることも選択肢として考えられるくらいの冷静さ・先見性がむしろ必要だ。

 しかし、売買の仲介を誰かに頼むとしても、Aさんのような目に遭わないために、どうやってよいビジネス・ブローカーを見つけるか。まずは信頼できる知人やブローカー的な仕事をしていない弁護士、会計士、コンサルタント等から紹介を受けることだ。

 あるいは、アメリカの書店で売っている会社売買に関する本の中には、全米の主要都市に事務所を構える「メジャー・ビジネス・ブローケッジ・ファーム」(大手ブローカー会社)のリストが掲載されている。そのリストからいくつか選び、実際に担当者と会って質問をし、親身になってくれそうな会社を選ぶ方法もある。ただし、大手を使う場合、個人や小規模ブローカーより、手数料が二倍近くなることもある。

 アメリカのブローカーは能力の差が大きく、経験のない人までが自称「ビジネス・ブローカー」を名乗っているので要注意だ。

 売買契約が成立すると、通常、契約金額の五%前後の手数料を支払う。売買当事者には都合のよいことだけ伝え、契約を急がせたうえ、手数料を受け取るとさっさと雲隠れしたり、問い合わせても音沙汰なしなど、よくある話だ。

 また、弁護士や公認会計士(CPA)等有資格者だからといって、無条件に信用しないほうがいい。本業だけでは食べていけないので、副業でブローカー的仕事をしている場合が多く、つまり、本業で顧客がつかない二、三流の有資格者であるといえる。レベルが低いので、副業の会社売買での仕事ぶりも推して調べるべきだ。

 一方、ブローカーへの手数料を節約するため、自分で買い手を探す方法もあるが、これは結構骨が折れ、不安、焦り、フラストレーションが溜まる。具体的には、取引先、顧客、競合他社に話を持っていくことが現実的だ。過去の実績からいうと、競合他社がいちばん興味を持つ。なぜなら、競争相手を買えば、手っ取り早く販路が拡大し顧客が増えるからだ。

 自分で探す場合、業界紙や全国紙に告知を載せる方法がある。複数の買い手から申し出がくる可能性が高まる一方、会社を売りに出していることが皆に知れるので、社員や関係者に動揺が広がるだけでなく、商売のチャンスにしようとするセールスマンからの問い合わせもくる。

 自分で買い手を見つけてきた場合も、交渉・契約にはその費用をケチらず、経験豊かな弁護士、会計士、コンサルタント等の仲介のプロに間に入ってもらったほうがいい。買い手が出してくる条件や売買価格の妥当性・公平性は当事者では判断がつきにくいし、合意に達しにくい。また後でトラブルにならないよう覚書や契約書をプロに正確に作ってもらう。

 ここで、売買価格交渉のための基本的な考え方について触れておきたい。買い手は売買価格をできるだけ下げるために、会社の弱点を突いてくる。したがって、事前にその弱点を正確に把握し、買い手のそのような指摘に対する解決策を提示できるようにしておく。

 例えば、過去に我々が関与したレストラン・チェーン会社の場合、買い手は過去数年間利益率が下がり続けていることを理由に、猛烈な価格引下げに出てきた。それを予測していた我々交渉チームは、高額で買収された競合他社の利益率を事前に調査・入手していた。そして、それらの利益率よりも同社のものは上回っていること、さらに今後業界・同社共に利益率が上向くであろう客観的根拠をいくつか提示し、価格引下げを阻止することに成功した。

 売りに出す会社の評価・価格算出方法は、次の四つがアメリカではよく利用される。

(1)上場している類似会社を探し、その株価を比較・基準にする「上場会社株価比較法」。

(2)過去の買収事例に使われた、実際の価格を参考に評価・算出する「買収事例比較法」。

(3)買収後の会社が将来にわたって生み出すキャッシュフロー(現金収入)を現在価値に換算する「ディスカウント・キャッシュフロー法」。

(4)総資産の市場価格から、総負債の市場価格を差し引いた総資本額、別名「修正簿価」を使う「修正簿価法」。

 実際に価格交渉では、より公正さ・客観性を追及して、これら以外の方法や、各方法で評価・算出した後平均を取ったり、組み合わせたりするケースもある。ただ、規模が小さい会社の買収の場合、買い手側は手間と時間がかかるため、簡単な方法で決めることが多い。

 簡単かつ小規模な売買でいちばん多いパターンは、買い手側から買収可能額(予算)が提示されることだ。それを超える額を売り手が要求したときは、数年間にわたる分割払い等売り手から見るとかなり不利な条件が出される。そのため普通はほかに買い手がなく、早く売る必要がある場合、買い手の資金調達可能額が最終価格となる。

 アメリカで優良企業と評価されているところは、ほとんどが子会社や関連会社を売った経験を持っている。中には、子会社や関連会社がかなりの利益を出していたにもかかわらず、戦略上の理由で売る場合もよくある。資本主義が徹底したアメリカ人にとって、会社は「投資商品」であり、売り買いすることに何の抵抗もない。

 ということで、アメリカで成功するためには、企業戦略と同時に会社を売ることと買うことの両方を念頭に置いた戦略を持つことが必須だ。


三つのポイント


ポイント1

 自分の会社を売ることも常に選択肢として考える

ポイント2

 仲介業者を選ぶときには信頼できるプロを見極める

ポイント3

 自らの弱点をよく把握し準備して価格交渉に臨む