今回は、アメリカのベンチャーキャピタルやエンジェルに対して説得力を持つビジネスプラン(事業計画)のつくり方とそれによる効果的な資金調達法を紹介したい。

 ビジネスプランとは事業計画書のことで、大きく分けると、事業内容の説明、財務計画、事業計画を支援する添付資料・データの三部になる。基本は、日米でそれほど変わらない。ビジネスプランのつくり方については、多くの本があるので、それらを参考にしてもらうとして、ここでは、特に注意すべき五つの点を紹介する。

 まず第一に「量より質」ということだ。事業内容とそれが短時間で成功できる理由、その理由を証明する事実やデータを使って、分かりやすく、論理的かつ客観的に説明することだ。

 先日、友人のアメリカ人ベンチャーキャピタリストが、ある起業家が送ってきたビジネスプランを読んで、そのベンチャー企業に5000㌦を出資した。そのビジネスプランは、たったの五ページで、事業内容と成功のためのポイントが簡潔・明瞭に説明され、予測や結論を導くための客観的データも適度に入っている。

 感心したのは、「エグゼクティブ・サマリー」、つまり一ページ目にある「ビジネスプランの要約」だった。読む側のベンチャーキャピタリストやエンジェルは、一定期間にかなりの数のビジネスプランを受け取る。起業コンサルタントの私ですら、毎月、米国に滞在している二週間で200近くのプランを読む。時間的にとても全部は読めないので、サマリーをまず読み、その先を読む価値があるかどうかを判断する。ないと分かれば、容赦なくゴミ箱行き。従って、まずビジネスプランを読んでもらうために、事業のポイントを分かりやすく一ページ以内に書く必要がある。

 第二に、「論理的かつ客観的な表現」を使うことだ。起業家は自分がやろうとする事業への思い入れが強すぎて、客観的に見ることができなくなりがちだ。アメリカの投資家は、徹底して論理性、客観性を重視する。具体的には、自分の会社の技術、製品、システム、サービスを説明する際に、「画期的な」、「世界初」、「世界一」などの主観的、あるいは確認が取れないような表現はさけ、「現時点においては、市場では他社から製品として紹介されていない模様」、「新しい技術の一つ」、「次世代製品となりうる」などの客観的な表現を使う。

 技術、製品、システム、サービスにおいては、プロが見れば、その革新性、優位性は言わずと分かるものだ。もし、ビジネスプランに論理性や客観性がない表現や誇張した内容があれば、それだけで信用を失う。「論理性、客観性の欠如した起業家が始める事業は、冷静かつ客観的、総合的な意思決定を下すことができないため、必ず失敗する」と判断されるからだ。

 一〇年前にある起業家が、電子式空気清浄機を開発し、事業化したいと私に連絡してきた。すぐに知人のベンチャーキャピタリストに会わせるために、ビジネスプランを送ってもらったところ、技術や製品の説明に「世界初」、「画期的」などの表現があった。疑問を感じたため、会うのを延期し、簡単な市場調査をした結果、もっと進んだ技術が開発され、すでに他社が製品化していることが分かった。

 その事実を起業家に伝えたところ、「信じられない」、「市場調査をする時間がなかった」、「彼らが私の技術を盗んだに違いない」とのコメントだった。それ以来、論理性を欠く、主観的な表現のあるビジネスプランを見たら、その時点で支援の依頼を断ることにしている。

 第三は、創業時から立ち上げまでの現実的な資金計画が必要なことだ。資金調達のためにビジネスプランをつくるにしても、資金ゼロでは、次の資金が集まるまでに時間とカネがかかり、すぐに倒産に追い込まれる。従って、最低でも創業してから次の資金のメドがつくまでに必要な資金を確保し、プランにも正確な調達額、調達先・方法を明記する必要がある。

 第四は、ビジネスプランをつくる段階から、販売・マーケティング戦略を具体的に立てることだ。特に技術畑出身の起業家は、売るためのシナリオづくりを軽視しがちだ。画期的な製品を開発したので「売れないわけがない」と思い込んでいる。現実は厳しく、いい技術、製品、サービスのほとんどが売れていない。

 理由は二つある。まず、買い手の立場になって売ることを考えていないからだ。要するに、便利さ、使いやすさ、価格などで客を満足させることを最初から考慮したビジネスプランでないと、投資案件としての魅力はない。

 また、ベンチャー企業である以上、どんなにがんばっても売れる量は知れている。そこで、販売・宣伝・信用力確保のための大手企業との戦略的提携の現実的なシナリオを明記する必要がある。マイクロソフト社が他の先発企業を抜いて、トップに躍り出た大きな理由の一つは、ビジネスを始める前から、IBMなどの大手企業との戦略的提携シナリオを描いていたからだ。

 第五は、「人材獲得戦略」を明記することだ。アメリカでベンチャー事業を始めるとき、日本以上に問われるのが経営陣の能力と質だ。日本では社長だけ力があれば通用することもあるが、アメリカでは映画関連など特殊な業界を除いて、社長をいれた経営陣(通常三人以上)に力がないと資金も支援も得られない。ビジネスプランでは、どういう人が経営陣に入るのか、また彼らは創業にあって会社にどういう貢献ができるのかを、具体的・客観的に説明する必要がある。

 最後に資金調達法について触れたい。アメリカの投資家から資金調達をする際にクリアすべき(暗黙の)共通の基準がある。それは、創業してから5年以内に売り上げと純利益がそれぞれ最低5000万ドル(約50億円)、500万ドル(約5億円)を超えることだ。逆にこの数字を達成できるようビジネスプランをつくれば、投資家も得やすくなる。

 それは難しいと諦めるのは早い。例外も多く、アマゾン・ドット・コム社のように、一定期間は赤字の垂れ流しでも、近い将来の巨額な利益還元を見込んで、赤字企業に投資し続ける会社もある。

 しかし、その場合にも、将来市場が巨大になりうること、競争に打ち勝てるビジネスモデルや明確な販売戦略を持っていることなどの基準は設けられている。

 いずれにしても、アメリカでは、日本より容易に多額の資金調達ができることもある一方、特殊な投資基準や視点があり、かつ各投資家が特定分野の事業にのみ投資する「専門化傾向」が強まっているので、アメリカのベンチャー投資事情に詳しいプロ(会計士、弁護士、コンサルタントなど)に相談することをお勧めする。


三つのポイント


ポイント1

 ビジネスプランは量より質、簡潔、明瞭に事業を説明する

ポイント2

 論理的かつ客観的な表現で読み手の信頼をかちとる

ポイント3

 販売・マーケティング戦略を重視し提携も視野に入れる