一人の人間の力には限界がある。まして言語、文化、価値観、商習慣の違う異国の地アメリカでできることは、想像以上に限られてくる。甘く見ると、会社を起こしたはいいが、大金をだまし取られる、会社を乗っ取られる、訴訟を起こされるなど、大きな問題へと発展する。

 このような失敗を避けるのみならず、アメリカでの起業成功のカギとなる専門家・パートナーの選び方について説明したい。

 アメリカで起業する場合、弁護士、会計士、不動産業者、コンサルタントなど「プロフェッショナル」(専門家)と呼ばれる人たちからの支援が不可欠だ。彼らの「プロフェッショナル・フィー」(サービス料)は決して安くない。しかし、将来会社を大きくしたいのなら、あるいはベンチャーキャピタルやエンジェルなどからの投資を請けたいのなら、必ず各分野の専門家のアドバイスを受けるようにしよう。身近な友人・知人に頼るよりも、結局はそのほうが安上がりだし、その後のビジネス展開が容易になる。

 アメリカは専門家集団の国だ。自称「専門家」はごまんといる。彼らの能力はピンからキリまでで、弁護士を例にとると、資格こそあるが専門能力はなく、しかしカネになるなら何でもやるといういいかげんな「何でも屋」から、専門分野の依頼しか受けない超専門家までいる。

 私がお勧めする専門家の選び方は次のとおりだ。信頼できる人から、信頼できる専門家を紹介してもらう。信頼できるかどうかは、その専門家に過去に仕事を依頼した人(クライアント)から評価をもらうことが一つの判断基準となる。適当なクライアントを知らなければ、専門家からクライアント・リスト(会社、担当者名、依頼内容が入ったもの)をもらい、担当者と話してみる。専門家によっては、クライアントによる推薦状を提出(普通は最低三社)してくる人もいる。できれば、その推薦状をうのみにしないで、推薦者に、確認するべきだ。

 逆に、信頼できない専門家を見分ける材料としては、次のようなことが挙げられる。まず、何でも引き受けようとする「ノー・プロブレン」を連発するなど調子がいい。クライアント・リストが提出できない。依頼したことにかかる費用と時間を聞いてもすぐに答えられない。前に言ったことを簡単に変更する。「ネーム・ドロッピング」(友人やクライアントとして著名人や有力者の名前を出すこと)をよくする。ビジネスの成功を保証するようなことを言う、などだ。

 質の悪い専門家を選んだために失敗したケースには、次のような例がある。

 A社は新タイプのスーパーマーケット事業を起こす目的で、アメリカで膨大な土地を買収した。その物件を紹介した自称「ベテラン不動産コンサルタント」は、「スーパーの最適地であり、その地域は将来必ず大発展する」と口頭で保証するようなことを言った。しかし、いざA社が建物の建設を始めようとすると、市からの許可が下りないことを知らされた。その地域でスーパーなどの大型商業施設をつくることをできなくする規制が最近できたとのこと。市によると、その規制案は半年以上も前からマスコミなどを通じて公表し、住民や関係者で話し合われてきたため、不動産の専門家なら分かっていたはずだと言う。A社はあきらめて、その土地を売ることにしたが、五年後の今も売れず、しかも、その地域は人口が減り続けているため地価は半値以下になってしまった。

 助けを求めてくる日本人起業家の悩みは、このように専門家の質の悪さからトラブルに巻き込まれたものが多い。料金は高く思えるかもしれないが、質の高い信頼できる専門家を使えば、成功への近道となるアドバイスや支援を効果的、積極的かつタイムリーにしてくれる。

 信頼できる専門家が見つかったら、早くよき友人・アドバイザーとなってもらえるようコミュニケーションを深める努力をしよう。絶えず会社の現状、新しい動き、新たな目標などを報告し、それに対して遠慮なく提案・忠告をしてもらえる関係づくりを心がけることだ。

 次に共同経営者などパートナーの選び方について述べたい。

 日本人起業家は、何でも一人で準備し創業する傾向があるが、アメリカ人の場合はその点合理的だ。それぞれの分野に得意な人々が集まり、お互いの得意・不得意を補うかたちのグループを形成する。三人以上での起業が多く、一人が技術・製造、一人が販売・管理、そしてもう一人が財務・経営企画に強い。それぞれのレベルが高いと、三人の力が単に一足す一足す一で三ではなく、相乗してシナジー効果が表れる。

 では、どのようにしてよきパートナーを選ぶか。まず、最も大事なことは、自己分析を徹底的に行い、自分の得意・不得意の分野、性格的長所・短所、経済力を正確に把握することだ。そうすると起業に際し、どの部分が足りないのかが自然に判明してくる。自分にないものを持った人を選ぶことは、パートナー選びの鉄則だ。

 日本の消費者をターゲットに、インターネット上にアメリカのサイバー・モール(仮想商店街)を運営する会社、バーゲンアメリカコーポレーション(BAC)をシリコンバレーで起こした佐藤俊之社長は、専門家とパートナーの選び方、使い方が非常に優れている日本人起業家の一人だ。

 佐藤氏は、BAC創業時に、市場分析と方法論にポイントを置いた緻密なビジネスプランを用意して、起業専門コンサルタントとして多くの成功実績をもつランディ・ライジンガー氏を見事に説得、副社長になってもらった。次にライジンガー氏のコネでシリコンバレー有数のベンチャー専門弁護士、ボブ・グンダーソン氏に顧問を引き受けてもらったうえ、異例の出資までしてもらった。さらにライジンガー副社長とグンダーソン弁護士の熱意と人脈と専門能力によって、BACは人材の確保、資金調達、信用面において、スムーズに展開している。

 佐藤氏の場合は、彼自身が中学生のころからイギリスとアメリカで過ごしたバイリンガル・バイカルチュアルだが、起業家本人がそれに当てはまらない場合は、ぜひ創業メンバーにそういう人を入れることだ。

 日本料理店を開業しようとしたBさんの場合は、当初、たまたま紹介された弁護士から不当な料金請求をされるなどの苦い経験をした。その後、慎重にチェックしたうえで、英語に堪能でビジネスにも精通した日本人パートナーCさんを見つけた。Cさんが一流の弁護士をうまく使いこなし、不動産業者や取引先からかなり有利な条件を次々に引き出し、一年もしないうちに店の経営は軌道に乗った。

三つのポイント

ポイント1

 身近な知人・友人を当てにせず各分野の専門家の支援を受ける

ポイント2

 能力・実績があり誠実な専門家とコミュニケーションを深める

ポイント3

 自分にないものを持った人を事業のパートナーとして選ぶ