本当に仕事ができる人は、全部自分でやろうとはしません。どんなに仕事ができる人でも、一人では大したことができないということを熟知しているからです。ですから、何かで自分よりできる人がまわりにいたら、その人にその部分をやってもらえるよう上手く仕向けます。

 特に自分が不得意なことがあれば、それを得意な人にやってもらえれば、正確かつ早く終わります。自分でやるよりできる人に頼むことは、あなた、頼まれた人、頼んできた上司、の3者がハッピーになれるのです。

 これを私は「委任力」と呼んでいますが、この「委任力」がない人が非常に多いのです。ですので、自分で何でもやらざるを得ないのです。その中では苦手なことも多いので、仕事は遅く不正確になります。頼んだ上司はいい迷惑です。その上司の評価まで下がるからです。

 「なんだ、君、できないなら最初から言ってくれよ! 他のできる人に頼んだのに!」

 こんなことを言われたら、何か他でアピールしない限り、あなたは仕事ができない人、よって、出世させてはいけない人として見られてしまいます。

 この対策として、普段から、まわりの人一人ひとりが、仕事で何が得意で何が苦手かを正確に把握しておく必要があります。ですので、時間が空いたら、まわりの人の得意・不得意を確認し、しっかり親しくしておくことです。できれば、普段からまわりの人のお手伝いはまめにしておくことです。そうすれば、いざ仕事を頼まれた時、すぐ誰に何を頼めばいいかをわかるようになっています。

 現実に、米国で大手国際会計・経営コンサルティング会社に勤めていた際、色んな社内外の人、特に顧客から、様々なことを頼まれました。しかし、一度として困ったことがありませんでした。普段から何がどの程度できるかの個人のデータを作っていましたので、いつでも対応できるようになっていました。

 私は、あまりにも仕事ができなったため、「餅は餅屋」、つまり、何事も自分よりできる人がいたら、その人に頼むこと、更に言い換えれば「委任力」早くから身につけていました。ところが、これは、実は私が社内で生き残っていくために考え出した苦肉の策だったのです。面白いもので、「委任力」をつけていったら、逆に仕事ができ、出世もさせて頂けました。