どういうわけか起業する人は特殊な能力があると思われています。確かにビジネスモデルを構築し組織を作って、社員を雇い引っ張っていくわけですから、骨が折れる作業ではあります。しかし、私の経験からすると、サラリーマンをやっている方がもっと大変です。好きでもないことを長々やらされて、上司から叱られ、部下から難題やつまらないことを持ち込まれ、同僚から冷ややかな目で見られる。勤めていてこんな経験はありませんか?

 そもそもなぜ私が起業しようと思ったかと言いますと、サラリーマン・コンサルタントとして出世を続けられる自信がなかったからです。起業する直前まで米国で勤めていた大手国際会計・経営コンサルティング会社では、世界中に十万人以上もプロフェッショナルがおり、「進まざるは脱落」という雰囲気が社内にありました。どんどん成果を出し出世しなければ、とても居辛いのです。

プロフェッショナル・ファームですので、こんなことは、あたりまえと言えばあたりまえなのですが、私みたいに、昔から勉強がまったくできなかった人にとって、「超」頭のいい人達と仕事をすることは、拷問状態以外何ものでもなかったのです。優秀な後輩も力をつけどんどん上がって来ます。おそらく、大企業はどこもそうでないかと思いますが、私のような凡人からすると、あまりにも頭がよくできる人が多過ぎて、スタートラインから競争してもビリになることは目に見えているのです。

でも、自ら起業し会社を経営することは、自分の能力に合わせて、自分のペースで仕事ができます。自分が優秀でなければ、できる人と組むなり、雇えばいいのです。松下電器産業創業者で「経営の神様」と言われた故・松下幸之助氏にお会いした際、しみじみ言われていました。

「病弱で高等教育も受けられへんかったし、他に選択があれへんかったんで、しぶしぶ起業したわけですわ。でも、自分がアホと思とりましたんで、優秀な人をすぐ雇ったんでんねん」と。凡人が起業したら、優秀でない分経営も工夫するので実は強いのです。