「よく、成功した起業家が起業するには、まず夢や志を持ちなさいと言われます。すぐにでも起業したいのですが、今のところ夢や志はありません。しっかりした夢や志が持てるまで、起業するのは待った方がいいでしょうか?」

 起業に関する私の講演が終わるやいなや、二十代後半位の青年が質問してきました。これは、私も米国で教育事業で起業しようとしていた際、自問し様々な方に相談したことです。たまたま当時私がいたテキサス州のダラスに来られたソニー創業者の一人である故・盛田昭夫氏に、同じような質問をしました。盛田氏は即座に迷いなく答えてくれました。

 「そんなものはいらないよ! 好きなことで起業したければすればいいじゃないか。会社も成長すれば、夢や志なんて、自然と後からついて来るよ。僕もそうだったから。会社が大きくなってから格好つけて夢や志は語ったけど、実は井深大という人間に惚れ、とにかく彼といっしょに仕事がしたかったんだなあ・・・ だから、彼の起業を手伝ったまでさ。若いんだから、あまり考えずに自然体でやりたいことをすればいいじゃないか・・・・・・」

 なるほど、目からウロコ状態となりました。起業するのに夢や志はあるに越したことはありません。しかし、「絶対に必要か?」、「ないと成功できないか?」と言いますと、成功した起業家を見てみると、必ずしも最初から夢や志があって起業した人は、かえって少ないくらいです。

 前に顧問をしていた米国デル・コンピュータの創業者であるマイケル・デル会長にも、同社が日本に進出することで相談された折に、彼にも伺ったことがあります。彼も、夢や志が最初からあったわけではなく、ただ単にIBMより便利で安くて質が良いパーソナル・コンピュータを自分の手で造り、多くの人に売りたかっただけだそうです。

 起業する際のポイントは、現実には夢や志を持つことではなく、寝食忘れるぐらい好きなビジネスを見つけ、楽しくそれを始めることです。まだ、成長する前から夢や志など大きく構える必要など全然ありません。ぜひ、好きなことで起業してみてください。