私が、米国でヘッドハントされて、大手国際会計・経営コンサルティング会社、プライス・ウォーターハウスに入った際、とても優秀な先輩Iさんがいました。仕事は正確で速いし、スピーチやプレゼンは要領よく説得力もあり抜群でした。つまり理論家です。

Iさんは、マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部を特待生で出た後、ハーバード大学経営大学院(ビジネス・スクール)でもトップクラスの成績で卒業しました。

 しかし、同期入社の人々はどんどん出世していくのに、彼は五年前に入社して以来役職が変わりません。不思議でしたので、ある上司に聞きました。

 「あんなに仕事ができるのに、どうして、Iさんは今まで昇進してこなかったのですか?」

 「実は上司を含め彼のまわりの人々はI君を信用していないんだよ。だから評価が悪過ぎてとてもリーダーにはさせられないのだよ」

 「なんでIさんは信用されていないのですか? ちゃんとしてそうに見えますが……」

 「I君は、他人や会社に対して不満ばかりで、本人のいないところで、その人の悪口を色々な人に延々と言うんだ。聞いている側からすれば嫌気がする。自分も陰で言われているのだろうと思うと、相手するのも嫌になる。とにかく彼みたいな二重人格者をリーダーにしたら、誰もついてこなくなる。そのうち自分から会社を辞めるでしょう。でも、よく五年もいたよなあ…… 再就職先がないのかなあ? 俺だったら辞めるけどなあ……」

 そう言われれば、経営コンサルタントという仕事柄、様々な企業に行った時、Iさんのように仕事はそこそこできるが、出世しないタイプの人に会います。困るのは、本人に自覚がないのです。そういう人は、会社を転々とします。最後には、Iさんのように行き先がなくなるようですが、本人にとっても、会社にとっても、それは不幸なことです。

 その場合、人格をもった人間としてではなく、機械やロボットとして、まわりから見られ、会社からそのような待遇を受けます。

 人の悪口を言う人には少なくても三つの共通点があります。一つは、悪口を言うほど暇なのです。次に、相手の気持ちがくみ取れない、つまり無神経なことです。そして、割と頭はいいのですが、仕事はできても、人間的な魅力はなく「被害妄想」者なのです。