米国で起業・経営コンサルティングをしていた頃、何人かの起業家・大富豪の顧問をやらせて頂きました。その一人に、ゴルフ場運営業として世界最大級の会社、クラブ・コーポ・インターナショナル(CCI)を創業した故・ロバート・デッドマン氏がいました。

 彼はクリントン前大統領同様、アーカンソー州の貧しい家庭で生まれ育ち、苦学して弁護士の資格をとりました。最初勤めた大手弁護士事務所では、数年でトップ(シニア・パートナー)になり、「ミスター立身出世」と言われたそうです。

サイド・ビジネスとして始めた、ゴルフ場運営業が大成功し、あまりの忙しさで弁護士を辞めて専念せざるを得なくなりました。それからCCIは脅威的急成長を遂げ、私が顧問をお引受した時には、彼の総資産額は、既に一兆円近くなっていました。

 CCIは、いつしか「ゴルフ業界のIBM」と言われ、デッドマン氏も、「米国で最も影響力のある起業家・大富豪の一人」に選ばれるようになりました。苦労して成功した分彼は、感謝の意味で社会貢献活動を重んじ、大学・美術館に百億円単位で寄付するのです。自ら大型病院「ロバート・デッドマン総合病院」や医療施設を作ったりもしていました。

 デッドマン氏が寄付した資金で、テキサス州ダラスにある私立サザン・メソジスト大学が新校舎を建てました。その竣工祝賀式典に彼と参加した時のことです。式典が終わるなり、一人の学生が飛んで来てデッドマン氏に言いました。

 「デッドマン会長! あなたの奨学金のお陰で無事卒業もできそうで、大手投資銀行にも内定しました。本当にありがとうございます! 会長は、大手弁護士事務所で記録的な出世をしたと聞いております。どうしたら、僕もそうなれますか?」

 「色々あるけど、私の場合は、とにかく素直にみんなの言うことを聞いてきました。例え、自分に非がなくとも、いつでも誰にでも謝れる大きな心を持ちなさい。そうしたら、人生悠々と生きていけるし、出世も含めてすべてが上手くいくよ」

 デッドマン氏のその言葉を聞いて、昔日本企業T社とCCIとの合弁で失敗したことを思い出しました。責任はT社にあったにもかかわらず、T社社長と和解交渉で会うなり、いきなりデッドマン氏は土下座をしたのです。交渉の仲介をしていた私も度肝を抜かれました。