監督官は、Kは横目でそれを見たと思ったが、彼の言葉に同意しているようでもなかった。しかしそれとまったく同じように、彼はぜんぜん聞いてなぞいなかったのかもしれなかった。

 というのは、彼は手を机にぴったり押しつけて、それぞれの指の長さを見較べているふうにも見えたからだ。二人の監視人は飾り布で覆われたトランクに腰かけて、膝小僧をこすっていた。三人の若い男たちは手を腰にあてて、あてもなくあたりを見回していた。どこかの忘れられた事務室のなかのように静かだった。

※どこかの/irgendeinem→irdisch/地上の、現世の

 忘れられた/vergessenen→vergehen/過ぎていく、終わる、運動する

 事務室/Bureau→Bilder/姿、写真、イメージ

 静か/still→stelle/位置、状態

☆この行為は、こうしなければ宙に浮いてしまう、つまり無重力である。地上で運動する姿(イメージ)のような状態だった。

 

「さて、みなさん!」とKは叫んだ。一瞬彼は自分がこの全員を両肩に担っているような気がした。

※全員/alle→宇宙、森羅万象

《一瞬彼は自分がこの宇宙を両肩に担っているような気がした。》

 

おたがいに握手をして、事態に和解的な決着をつけるのが一番よさそうです。

※握手/handedruck→drucker/力点、対象物

 和解的/versohnlichen→versohnung/罪のあがない

《事態は(罪のあがない)が終了したものと思われます握手して向こう側(死界)へ行くのが一番よさそうです。

◎握手というのは「あの世とこの世」の支点、力点ではないか。

 

ところがこっちは、立ちあがると、フロライン・ビュルストナーのベットの上に置かれていた固いまるい帽子を取り上げ、新しい帽子を試すときのように両手で用心ぶかくかぶったのだ。

※帽子/Hut→Herz/心

フロライン・ビュルストナーというのは、おとめ座、聖母マリア。基督教の言い伝え、伝説をふまえた意味。

①頭を枕につけたまま老婆は云々

②一瞬彼は自分がこの全員を両肩に担っているような気がした

③固いまるい帽子をとりあげ、新しい帽子を試すときのように両手で用心ぶかくかぶったのだ。

 ①②③の意味するところはみんな同義である。ユダの罪に酔って世界を頭と背で支えている民族の屈辱的な姿をさりげない描写で暗示している。

④そこには切りだされた石がころがっていた。男たちはKを地面に座らせ、石に凭れかからせ、頭を上向きにのせた。かれらが非常に苦心したにもかかわらず、またかれらの意のとおりにしようとKが努めたにもかかわらず、彼の姿勢は信じられぬくらい無理なものだった。(第10章より)

この4つの情景描写はユダの罪からきている(ダンテの『神曲』地獄編)

《一瞬彼は自分がこの全員(宇宙、森羅万象)を両肩に担っているような気がした。》

 Kは気がしただけである、監督官が固いまるい帽子(地球、宇宙)をとりあげ、新しい帽子を試すときのように両手で用心ぶかく被ったのだ(落とさないようにという皮肉?)

 要するに,Kの代りに新しい帽子(ユダの罪による罰としての宇宙の重み)を被ったのだと思う。

◎ゆえに、監督官が立ちあがってからはとくに、ますます自分がここにいるすべての人びとの拘束から自由になっていくのを感じていたからだ、となる。