「ヨーゼフ・Kだね?」と監察官がきいたのは、おそらくただKの散漫な視線を自分にひきつけんがためだったようであった。
☆二人は同一人物、K自身の三位一体なる人物ということだと思う。確かにこの監察官は「父・母・子(K)」なのである。
「今朝のいろいろな出来事で非常に驚いたでしょうな?」監督官はきいてそう言いながら、マッチのろうそくだの、本だの針箱だの、心理にぜひいる品物のような顔をしてナイトテーブルの上にのっていたものを、両手でわきへおしやった。
☆今朝の出来事って「死」なのだからこれ以上の驚きはない。
マッチは年齢?ろうそくは生命の象徴、本は人生等の記録、針箱は「おとめ座」のスピカ、つまり母の象徴。
《審理に必要と思えるものを無理にわきに退けた。つまり監督官の本音は「審理」にかけたくないのではないか「審理=本当の死」なのだから。》
「ひょっとしてぼくの言葉を誤解なさったのかもしれませんが」、とKは急いで申し立てようとした。」
「ぼくの言ったのは」と言いかけて、Kは中断し、椅子はないかとあたりを見回して「腰をおろしてもかまいませんか?」ときいた。
「そういうことは慣例にありません」、と監督官は答えた。
(この時点でKは確認したのである、ここはすでに重力圏を離れてしまったということを。)
彼は監督官の机に歩みより、手をさし出した。監督官は目をあげ唇を噛んで、さし出されたKの手を見た。
「ぼくはむろん非常に驚いたしかしひとと生まれて三十にもなって、しかもぼくの場合がそうだったように、独力でこれまで切り抜けてこなければならなかった者の場合は、ふいうちにはもう充分きたえあげられていて、そうそう苦にはしなくなる、という意味です。
※驚く/、不意打ち/Uberrasch→Uberirdisch/天上の、この世ならぬ、超自然の
durchschlagem/突き抜ける、血路を開いて進む
《「ぼくはむろん非常の驚いた、しかしひとちうまれて三十にもなって、しかも僕の場合がそうだったように(誰の場合でも)、独力でこれまで切り抜いてこなければならなかった者の場合は、天のさい配にはもう充分覚悟ができているという意味です。」(要するに生まれたからには死ぬ)という意味。