Kはしかし彼女を試していたので、考えぶかげにスプーンでコーヒーをかきまわし、黙っていた。

※Probe/試す、Liebe/愛す・・・ここは「愛す」

 コーヒー/Kaffee→Kaff/ばか話

 スプーン/Loffel→(古)ばか者

《Kはしかし彼女を愛していたので(天界の母のもとへ行くのかと思うと)感慨深いものがある。我ながら馬鹿なことを考えて馬鹿な奴だと自嘲しつつ、しかし黙っていた。

 

「先だってのビュルストナーさんのことでの疑いはもう晴れたんですか。」

※疑い→「ところでわたしが彼女を疑ってるのは、なにもこれが唯一の理由じゃないんですよ。」

 理由は二度も彼女が違い男といっしょなのを見かけました、というもの。

 

「処女懐胎」子を孕むことへの憶測

 っグルーバッハ夫人の見解(疑い)は人間的である。なぜなら彼女(聖母マリア)は男の介在なしに子を孕むという非人間的な話によって作り上げられた偶像だからである。

 

「Kさん」とまさにこの質問をこそ待ち受けていたグルーバッハ夫人は叫んで、組みあわせた手をKのほうにさしだした。

※組みあわせた手/gefalteten Hande

 組あわせる/paarung/交尾、結合 組もあわせた手というのは「セックス」の暗示ではないか。

 

「あなたなり他のどなたなりを傷つける気はなかったんです。」

※傷つける/Kranken→Klingen/ベルが鳴る、これは死を意味する

 「だれも死んでほしくないんです!」

 

「そしておっしゃったでしょ、あなたを追い出すがいいって。あなたを追い出すなんて!」

※「あなたがここを出て、冥府へ行けばいいだろうって。あなたを死なせるなんて!」

 彼女はエプロンに顔をあて声をだしてすすり泣いた、というわけである。

 

グルーバッハ夫人はKが本当に和解したのかどうか見とどけるためにエプロンを目の下にずらした。

※和解/versohnt→あがなう  あがなう/entgelten→entgegnen/出迎える

 目/Augen(丸窓)→(ドアの)のぞき穴

 エプロン/Schurze→守り、保護する

《グルーバッハ夫人はKに本当の迎が来たのかどうかを見とどけるためにKにたいする保護(心配)を目(梃子の点)の下にずらした(意思をもってはずした)…母と子が永久の別れに涙し、お互いを思いあっている。》

 

「どうやらグルーバッハ夫人の態度から推測するに霊の大尉はなにも漏らさなかったようだったので、あrてさらに言い足した。」

※グルーバッハ比人は知っているのだと思う、大尉が来ることの意味を。

 ビュルストナーが「昨日から」と言っていたが、それはビュルストナーと話しているうちに逮捕された日は終り、翌日になっていたからで逮捕(死)の当日に大尉はグルーバッハ夫人(地球)のところへKを迎えに来ていたし、気づかないが、モンタークさん(母)も、あの逮捕の日に迎えに来ているのである。

 

「本当にあなたは、よその女性のことでぼくがあなたと仲たがいするかもしれぬなんて思ってるんですか。」

※よその/fremden→(よそ)といっても現世と冥府ほどの異郷。

 

「なぜKさんはあんなにまでビュルストナーさんのことを気にするんだろうって。なぜ彼女なんかのことでわたしとけんかするんだろう、彼に一言でもひどいことを言われただけでわたしが眠れなくなることを知ってらっしゃるのにって。」

※ビュルストナーは天の大いなる母なのだから、気にするのは当然のこと。言ってみれば、あなた(グルーバッハ夫人)にとっても「母」である。

 

彼はただコーヒーを飲んで、グルーバッハ夫人に出すぎたふるまいをしたと感じさせることで満足した。

※飲む/trinken→trinitat/三位一体論

《グルーバッハ夫人の前でコーヒー(ばか話)を飲む、つまり、父母子の三位一体論を暗示するにとどめた、という意味だと思う。》