ところが平太のお母さんが少し病気になりました。毎日平太の事ばかり云ひます。

 そこで仕方なく村長さんも電報を打ちました。

「ハハビャウキ、スグカヘレ。」

 平太はこの時月給をとったばかりでしたから三十円ほど余ってゐました。

 平太は色々考えた末二十円の大きな革のトランクを買ひました。けれどももちろん平太には一張羅の着てゐる麻服があるばかりほかに入れるやうなものは何もありませんでしたから親方に頼んで板の上に引いた要らない絵図を三十枚ばかり貰ってぎっしりそれを詰めました。

 

※お父さんが村長さん(太陽)なら、お母さんは月。

 少し病気(sick→sickle/小鎌)釜は月の相を表現する。

 すぐ帰れ、という言葉から考えて二十六日くらいの月かもしれない。なぜなら死者があの世に逝く天の通路は皆既食のあの黒い環だと賢治は考えているからである。

《「ハハビャウキ、スグカヘレ」というのはツキが小鎌になり「死者の道が間もなく開きから帰ってこい」と。》

 

 三十円はサン・ジュウ・エンと読んで、サン(太陽)の自由な円→現実的な金額には拘らない。

 二十円はジ・ジュウ・エンと読んで、字で自由に演劇(述べる)

 大きな革のトランク→大はダイと読んでdie/死、革はhide/隠れた、トランク/truhe/棺)

 一張羅の麻服、麻→朝/morning→mourning/哀悼

 板の上に引いた要らない絵図→板はイタ、絵図はエズと読んで、遺体の残した怨(怨念)

 三十枚はサン・ジュウ・マイと読んで、サン(太陽)は渋(しぶしぶ)毎(その度)

 貰うはセイと読んで、悽(悲しむ)

《字で自由に演(述べる)

 哀悼、遺体が常に隠している怨念、太陽は渋々その度に悲しんでぎっしるそれ(怨念)を詰めました。》