けれども森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれだと思ってゐるだけでした。するとある年の秋、水のやうにつめたいすきとほる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠には、雲の影がくつきりうつゝてゐる日でした。
(森名前勝手思年秋水風柏枯葉鳴岩手山吟冠雲影日)
森はモリと読んで、魍霊
名前はミョウ・ゼンと読んで、妙、善
勝手はショウ・シュと読んで、照、衆
思はシと読んで死
年はネンと読んで、然。秋はシュウと読んで、周
柏はハクと読んで、魄
枯はコと読んで、個
葉はヨウと読んで様
水はスイと読んで推
岩手山はガン・シュ・サンと読んで、眼、主、サン(太陽)
銀の冠はギン・カンと読んで銀、環
雲の影はウン・エイと読んで、薀、永
日はニチと読んで、日(日の光)
《けれども魍霊(精霊)には不思議に道理にかなっている照(あまねく光が当たる)衆の死があるだけでした。
然るに周(あまねく)魄の一つ一つのありさまは冥(目に見えない神仏の働き)である。
岩手山(要の主たる太陽)の銀(白く輝くもの)の環には薀(奥義)の永(永久)くっきりうつしている日の光がありました。》