『室内』
中央に婦人が佇んでいるが主題は『室内』。
彼女は封じ込められているとさえ思えるほど消失の感がある、真ん中に位置しているにもかかわらず。
直角の壁面、双方にある扉が彼女を押すかのような印象は、白い面の領域が彼女の黒衣を圧しているからである。
画の三分の一ほどは暗色であり沈み込んでいる。彼女の立地点も定かではなく現実感に乏しい、つまり浮いているのか沈んでいるのかという曖昧さが漂う。
しかも天井へかけての空間も突き抜けており、上下は空洞になっているかの不安定さがある。
閉じた空間(室内)であるのに堕ちていくような不安感があり、テーブルと椅子の距離間も微妙な隔たりがある。
室内(建屋)に漂う時間の経由が夫人を圧している、室内(建屋)が力(エネルギー)を潜在しているのである。
静止画なのに時間(建屋の経由、歴史)という怪しさが婦人に対峙し、むしろ圧している。
畏怖が暗躍する景である。
日経新聞『北欧絵画のメランコリー/十選』佐藤 直樹より