ジュースなどの販売機の(お釣り)の窓口を指で確認していく老女がいた。

 バス停でも町角でも必ず指でそれとなく確かめる、釣銭を取らずにいく僅かな確立を当てにして…。

 

 おなじ老女を病院の待合室でも見かけたことがある。

 何かを物色しているその姿を目で追うと私の傍にやって来て「わたし、この病院の近くに住んでいて時々テレビを見に来るんですよ」と事もなげに言った。テレビのない家はない時代、きな臭い話だと思ったけれど黙って肯いた。

 

 ある日コミュニティセンターの図書室で会った時、妙な胸騒ぎがした。

 数日後、廊下の壁に張り紙があったので見ると(盗難にご注意ください)という旨。それきり彼女はこの図書室には現れなくなった。

 

 次に会ったのは商店街のど真ん中、中年女性がその老女の頬をおもいっきり音の出る強さで叩いた。

(娘さんも苦労するよ)雑踏の中で小さな呟きが漏れた。

 

 その後彼女に会ったことはない、もう二十年も前の話である。