『傑作あるいは地平線の神秘』

 

 三人の男、否、任意の男の分解である。

 各それぞれの頭上には月が見える、ということは三人の男たちは同じ時空に存在していない。

 左右の男の背景である地平線の位置(左右に差異がある)、中央の男の左には波があり水平線がある。つまりこの画には境界線(縦)が無い。つまりこの画は境界線がなく三つの時空を重ねたトリックが潜んでいる。

 

 一見同じ男の形象を踏まえて三人を描いているため同じ地平に立つと信じてしまう。

 三人の男を主体に考えれば同じ地平線であることが当然だからであり、同じような配色、タッチで描いているため地平線と水平線とが判然とせず、まさかの事態を想定しない。しかも遠景はぼんやり霞んだ街並みであるため、中央の線が水平線(海)だとは気づきにくい。積み重ねたデータ(観念)の中にそういう景は存在しないからである。

 三人はそれぞれの方向(右、斜め左、前方)を向き、地上の足部分はカットされている。あたかも三人は同じ地上に並び立っているとしか思えない。

 

 まさに傑作である。

 地平線は神秘には違いないがこれは策略の神秘である、故に傑作と呼ばざるを得ない。

 鑑賞者が見落とすことは必至と信じたマグリット、秘かな微笑が垣間見える。

 

 写真は『Rene Magritte』カタログより