斎藤義重という作家はわたしの横を通り過ぎる時「あなたねぇ、見えないものを見ることですよ」と、素人のわたしに呟いた。小さな教室の講習会である。気まぐれにそんな言葉をつぶやいたのかもしれないが当時のわたしには何故かその言葉が響いた。

 

 後に仁和寺へ行ったという僧侶の教師はわたしの横を通り過ぎる時「あなた、やればできる人なのに惜しいなぁ」と呟いた。

 

 二人とも何気なく放った言葉だったに違いない、直接面と向き合った教示でもないのに深く刻まれ、わたしを応援してくれている。勉強など歯牙にもかけない怠け者だったわたし。

 まさか78才にもなってその言葉に甘え、その言葉に支えられるとは!

 

 言葉は力、一人の人間にこんなにまで沁み込むなんて。

 言葉の力を信じて遅ればせながら、恥ずかしながら向き合っていきたい。