『炎の帰還』

 

 帰還・・・戦地から故郷に、宇宙から地球になど、遠く離れた地から元居た場所に戻ることであり、遠隔の時空を超えて無事に帰りつくことである。

 仮面を付けた巨大な男が街を俯瞰している図であり、その手にはバラを持っている。この景を以て『炎の帰還』とタイトルした意図は何だろう。

 

 全体真赤である、男は塔や橋のある街を踏みつぶしている、即ち破壊である。炎になっての帰還、男は通常のサイズでなく巨大であれば一歩踏み込むだけで街の様相は倒壊に晒される・・・否、破壊された街に帰ってきたのだろうか。

 (薔薇)は愛の象徴であれば、愛を持っての帰還である。しかし街はすでに炎に包まれ崩壊の危機にある。

 シルクハット、礼装、仮面の男は武器を持たず暴力、戦闘とは無縁に見える。しかし『炎の帰還』であれば《焼き尽くすこと、憤怒、逆襲》のイメージを払拭できないが、腰を低くし拝礼するような憤怒は無い。

 街がリアルであれば、男は非現実である。この巨大な男は愛と礼節を持って街を救済に来た風(変革あるいは復讐)かもしれない。

 手に持つ薔薇は将来への明るい希望を象徴するのか、単に一人の女性に奉げる一輪なのか、薔薇はすべての場合に愛と敬意を醸す。

 

 作品(画の中)の膨張と収縮は景色の意味を変える。炎(真赤)においても情熱と欲望、救済と闘争などを含み、判断に迷いが生じる。答えを見出せない矛盾の景。

 『炎の帰還』は凱旋なのか、報復なのか・・・手に持った一輪の薔薇に答えを委ねたい。薔薇を未来ある愛の明るさと捉えれば平穏に幕は閉じる。

 正義か非か、混沌は恐怖を煽り妄想を限りなく膨張させる。

 

 写真は『Rene Magritte』カタログより