『禁じられた書物』
平らな床から唐突に美しいとも言い難い頑強そうな指が付き出ている、その上に馬の鈴。床面にはIreneの文字が。
単調な部屋には雄々しいと思える指(イレーヌ)と、壁際には階段が設えてある。それだけの室内、階段を上ると壁に突き当たる、つまり何もない不要の階段である。
指・・・上には宙に浮いた馬の鈴。鈴は指令、伝言、噂など人の声を暗示している。イレーヌは何を発信しているのかは不明であるが、善意や希望といった未来志向はなく指の暗い影は不穏である。
何も無いが、何か声を発し階段を上るべく煽っている。扇動、意味のない空疎が部屋に漂っている。
イレーヌ(Irene)と人魚(sirene)をかけた言葉遊びになっているという説明文を考えるとイレーヌという名前は架空であり前作の『イレーヌ・アモワールの肖像』も実写のような緻密さの肖像は、架空の作り上げられた像に違いない。
かの人と名指ししたいほどの対象であるが、断じて判別不可能な(誰も知らない)人物像ではないか。
抽象的な思いでは無い、しかしその言動に抑えきれないほどの嫌悪を抱いている。この虚しさ、得ないの知れないものへの怒りを謎のような空漠、拒否感を以て具象化した作品を『禁じられた書物』とタイトルしている。
この作品の質(内容)を読んではならないという前提で描かれた憎悪を消化した作品である。
写真は『Rene Magritte』カタログより