『狂気について瞑想する人物』
男は身を乗り出して目前の空白(虚空)を凝視している。見るという姿勢ではなく、一心不乱に探り出すという猛々しさが潜んだ姿勢である。見えないものを見つけ出す『狂気』を探求するという自己への挑戦、誘発である。
手に持つ燃えさしのパイプは時間の残余がないという切迫の心理であり、思いは順当な時空であるはずがないという自己否定でもある。真だろうか、善たる正義だろうか、美への執着だろうか。否、総てを超えた異次元への脅迫である。
凝視の限界、時空の定理、これらは絶望でしかない。存在、ありのままの状況を問うているのではない。超えたところの真実は証拠を欠落する、そして証拠の捏造はすでに狂気に他ならない。この巡廻への苦悩、めくるめく時空を切り裂き辿りつく結末は有るか。
身を乗り出し研磨する真実の一点、過去はすでに実証を霧散崩壊し、それに迫る未来はすでに《狂気》の領域に過ぎない。
鑑賞者の薄笑い軽蔑が、『狂気について瞑想する人物』の画を立体化し、マグリット自身の深い闇を重く沈めていく。
写真は『Rene Magritte』カタログより