『女盗賊』

 

 女盗賊、女であると明言することで、黒衣の人物は女であると了解する。が、しかしそうだろうか。

 黒衣に包まれているが、肩幅の広さは女を打ち消す要因がある。

 

 箱は不明ではあるが大切なものであり、《奪うべきもの》あるいは《守るべきもの》である。

 黒衣の人物は箱を抑えている。盗賊ならば持ち上げようとするのではないか。

 

 女盗賊はこの黒衣の人物だろうか。この人物から盗むために立ちはだかる画面上に現れていない見えない他者の存在があるのではないか。決して取られてはなるまいぞと箱を抑えているのは・・・。

 

 母の柩、マグリットが幼少のころの事件であれば短い下半身はマグリット自身であり、母の柩が運ばれようとするのを威嚇した姿ではないか。なぜ女盗賊とタイトルしたのかは不明であるが、母の柩を運び出そうとした係員を見た記憶ではないか。渾身の力で拒んだ心情、作品に登場しない他者(女盗賊)は描けないほど大きく脅威だったに違いない。

 

 この画面に不在の人物こそが(女盗賊)であり、不在の大きさ脅威をタイトルにしたマグリットの哀しみは計り知れない。

 

 写真は『Rene Magritte』カタログより