『天才の顔』
頭部を縦に切断した顔の石膏像が不明な長い板の上に存る。始まりも終わりも不明な細い板には刻みがある。連続か不連続かを知る手掛かりはなく、板の着地も不明であり漂流の時空の中に漂っている空でもある。
存在そのものの証明が困難な石膏像であり、右の眼と左の頬が欠如している。
あなたの片目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。(略)もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりなさい。(「マタイによる福音書、第5章より)
この関係性をマグリットは問わず、黙して描く真意にまでは鑑賞者には届かない。マグリットにある問いと応えの表明である。
黒いビルボケから生え出た枝葉は何を意味しているのか。
任意の時空は定かでなく不穏ゆえの時空に深くため息をつき、迷路・迷宮に凝視する。
天才の顔を提示するマグリットは以上を語らない。
写真は『Rene Magritte』カタログより