『新聞を読む男』

 新聞を読む男が主題である。しかし、四分割された同じ部屋の同じ設えの中に男がいるのは四分の一である左上の画面の中だけである。

 四分の一ほどの滞在、浮いて希薄な存在の男。関心は新聞(家庭外の社会の情報)に向けられている。男の着衣もハウスウエアーではなくネクタイ着用の対世間に向けた仕事着である。

 男の欠けた部屋の静謐、用意された椅子に相手の姿はない。男は四分の一ほどの姿を見せているが、対面の椅子に男の伴侶、妻の姿は見えない。熟年の男にアットホームな安らぎはなく、子供たちの影も皆無である。

 男に孤独の影はなく、ひたすら新聞(社会・仕事)を読んでいる仕事人間であり、家庭にあっても社会経済の動向に身を委ねている。マグリットの父である可能性が高いが、黙して一人の男を描いている。

 写真は『マグリット』展・図録より