
『王様の美術館』
王様、選ばれた者、支配者が所有する美術館である。薄雲がなびく青い空、山々はごく穏やかな稜線を描いている。その山間に立つ建物が美術館らしい、シンプルで巨きな建物は人のシルエットの真ん中(心の中)に存在している。手前に在るが、暗い森の上という感じであり、背後の山々のほうが次第に明るくなっている。
秘蔵の手前は暗く閉ざしているが、後方は次第に明るく開放的である。美術館の背後は進むにしたがって明るく開放的であり空に溶け合うような印象がある。
人型のシルエットには、目・鼻・口の器官が描かれている。視覚、嗅覚、味覚・・・感覚器官の現出。
誰もが所有する感覚器官には誰もが感じる《美への眺望》が内包されている。
彼の後ろには馬の鈴(語り、口伝、主張、歴史etc)が存在している。
背景は漆黒、時代を問わない永遠の時空である。
任意の男のシルエットは、一人の男であり、男女をも問わない、皆の中の一人である。それぞれが王様なのだと言っている。それぞれにその人特有の美術館があるはずだと言っている。その胸を開けば必ず美術館が解放されているのだと教えている。
美術館は占有するものではなく、全ての人に開放されていると、その目でその口で教示している(解ってほしい)と。マグリットの熱い気持ちである。
写真は『マグリット』展・図録より