
この絵をゆっくり見ていると、任意の人が規則正しく並んでいるように見えるが決してそうではなくて、それぞれ異なったほうを向いていることに気づく。そして、人と人の間隔は人を360度回転させるだけの余裕がある。つまり、弊害がなく自由である。
自由と解放、開かれた世界観、そして豊かで知性を有した暮らしを一人の紳士に凝縮させている。ひとりの人の異なる形というのは、差別の撤廃、平等の提示だと思う。
『ゴルゴンダ』という任意の命名(地名)、それはありふれた、ほんの一部に過ぎないが、すべて(世界)の中の一部であり、一部『ゴルゴンダ』はすべて(世界)である(あるべき)という主張である。
世界には格差がある。一部の共同体、ほんの街の片隅においてさえ貧富の差があり、学識の不行き届き、職業の偏見がある。肯定せざるを得ない社会の仕組みへの反発と嘆息。
マグリットの優しさには胸打たれるものがある。ひとり静かにこの絵を描き上げた時の充足感に似た祈り、マグリットの崇高さがここにある。
写真は『マグリット』展・図録より