『ガラスの鍵』

『ガラスの鍵』というタイトルであるが、岩肌の連山と巨大な岩石が浮いているのか細い尾根の上に鎮座している光景であり、鍵の所在は不明である。

 硬質の岩石vsガラスの鍵を、質的に考えるとガラスの鍵は使用不可の弱体、脆さに見える。なぜ、『ガラスの鍵』だったのか。
 この画の中央に位置する巨岩石は謎であり、通念では在り得ない光景である。浮遊にしても、着地にしても、このような位置関係にあること自体、奇跡であるより他ないが、重力を考えたら一時的にもこの光景を維持することは不可能である。

 これを解く鍵が『ガラスの鍵』であるという。
 ガラスの特質は、透明で硬いが脆いというものであり、比喩的には《秘密や隠し立てがない》という意味に用いられる。
 ここに秘密はなく、《ありのままである》というメッセージだろうか。

 在り得ない光景こそが現実である、という論。
 肯定的世界観を全否定する、鏡に映った虚である負の世界でもなく、わたし達が絶対だと確信している物理的根拠を持った見える世界観への反論、総てをひっくり返したのちの肯定。その見えない時空に精神界を解く鍵が潜んでいる、という課題への大いなる挑戦である。


 写真は『マグリット』展・図録より