『旅の想い出』

 旅とは、起点を離れ移動した時間・空間をいう。
 画を見ると、総てが石化している。つまり時間は停止したまま遥かな時間を超越している現場である。超未来であるが任意であり、特定は不能である。本来覗き得ない時空であるが、想定された架空の時空を設定している。
 現在置かれた時空を、未来から、過去の遺跡となり果てた状態にして旅という時間に計っている。

 老いた男は着衣にみられるような一般的な生活者であり、テーブルの上には所有する灯りと主食ではないデザート(副食)の果実が盛られている。壁に掛けられた額には、草木も生えない数千メートル級の高山の狭間に、亀裂の入った崩壊を与儀なくされた塔と樹が立っているという景である。
 総体的に見て、人間の生きた軌跡、所有した時間がこの石化の中に封じ込められている。傍らのライオンは男とほぼ等しい量感をもって描かれている。男がライオンであり、ライオンが男であるような不思議な等質感である。つまりこれは男の内実、精神の形ではないか。
《大いなる反逆》、時空の経過は肯定するが、精神の時空は自由であり、解放されているべきだという信念である。


 写真は『マグリット』展・図録より