
『媚薬』
背景は朱赤のベタである。燃える恋情、沸き立つ欲情という認識であるが、彩色が暗示する感情は、主体と思える上着の材質に不一致である。
石を刻んだ服など見たことがないが、銅像の着衣だけを残したと考えれば肯ける。つまり本体(人間)が欠如したこの物は、もちろん《人間》を想起させる。
人間不在、この上着の形はこれを着ていたであろう人間を曖昧に思いださせる。この画の時空は計り知れないほどの超未来かもしれない。人間(有機質)は焼失したが、石は劣化するも残存。超未来人(?)たちが恋い焦がれる《かつての人類》への恋情ではないか。
これを着たらしい先祖の生物(人間)への遥かなる思いに狂おしくも身を委ねている。わたしたち現代人は過去の遺物として消え果た時空のずっと向こう、星の彼方でわたしたち現代人という消滅し果てた旧跡を恋情を持って偶像化し、眺める肉感的なつながりに求愛している。
写真は『マグリット』展・図録より