『シェヘラザード』

 真珠で人型に模られ目と口のみのシェヘラザード、実体のない幽体である。
 その彼女の世界、世界観は馬の鈴(口伝、神話、噂、伝承など)によって語られる。カーテンに被われ閉ざされた架空の物語は、コップの水(一縷の真実)を交えてまことしやかに語られていく。台座は板でなく石であり、時代の恒久性を垣間見せている。つまり、ある意味不変性を保持しているのではないか。

 樹木、緑の大地より少し高い位置にあるのも暗示的である。緑の大地は現実であり、崩壊し廃墟となり果てた空洞から人ではなく鳥が巣立っているという皮肉な光景はこの時空全体がまだ見ぬ未来であることを示している。
 過去の物語の語り部とされるシェヘラザードは、むしろ永遠だという暗喩が隠されている。
 この画の水平線はシェヘラザードの目の位置よりずっと低い。シェヘラザードは現実よりはるか高い位置に君臨している。

 空想の語り部の隠れた普遍性の実態は、欠如しているが存在していると確信し、同意し、自らも同じ領域に仕事の拠点を置いているという吐露である。


 写真は『マグリット展』図録より