ライオンの下のものは何だろう、軟体動物(蛇とか深海魚のような)、鏡や新聞、お金でも入ってそうな袋も見える…つまり生きるのに必要な類、球体の裏側にも。
 普通の旅人が持てる物ではない。人生そのものが旅だといい、中空を浮遊している。俯瞰というか、世界を客観視する旅人であるが、見えるのは波静かな海面ばかり。旅人に仲間はいない、人の煩雑さから逃れる世界観は着地点を持たない。
 浮遊、重力のない世界。地上の律(物理的条件)を離れた精神界の旅人である。

 室内にいることの多かったというマグリットの秘かな希望、自身は地上をはるか眼下に眺め渡していたのかもしれない。逆に言えば、見られること、直視されることを回避した信条だったのに違いない。
 マグリットの心的自画像である。


 写真は『マグリット』展・図録より