
『旅人』
旅人、生まれて生きて死んでいく。一つの現象、泡のようなものかも知れない人生。マグリットは宙空に浮く球体を旅人になぞらえている。
椅子(地位)トルソ(性)樽(水)ラッパ(発言)ミシン(着衣)葉(食)ライオン(精神)・・・etc、どんな風にも解釈を被せることができる物体という仲介が球体を包んでいる、あるいは構成している。
それが宙空に浮上している。物理的には落下せざるを得ないこのものは、つまり精神そのものである。微かに水平線が見えるだけの天と地、蒼く透明な無の時空である。精神は沈むことなく浮いている、浮くだけの精神力、エネルギーがあり、生きている証でもある。
目的、目指す方向性は示されておらず、ただそこに存在するのみである。夢幻、静謐、そして無限の世界を旅人は彷徨する。移動していくことだけが旅人ではない、世界の変動の中に生きることもまた旅人たる所以ではないだろうか。
写真は『マグリット』展・図録より