
『美しい虜』
太く黒く真っ直ぐに立つ樹木の幹、遥か彼方の水平線、十字を切ったような構図である。信仰・・・信じることの美化。
この遮るもののない長閑な景色の眺望、しかし、よく見るとキャンバスに描かれた絵が左右前後に合致していることに気づく。キャンバスの縁、留め具(クリップ)、三脚の足、それらの線がなければ何の変哲もない風景にすぎない。
この描かれた絵は実際の風景の一部を被っている、にもかかわらず、まるでつながっていて不自然には見えない。不自然に見えないこと自体が不自然であることを忘れるほどである。
有り得ない光景である。
決してこの偶然はないし、視点が動けば合致は即崩壊することは判然としているが、絵そのものは動かない。絵が隠した風景を覗き見ることさえ不可能であり、このままを信じるより他の術はない。
動かぬ事実、その中に隠蔽されたかもしれない事実は絶対に知ることは不可能である。あるがままを信じるより他の選択はないが、隠されているという事情は疑惑を孕む。
この絵の事実から決して抜け出せない!『美しい虜』がここにある。
写真は『マグリット』展・図録より