漆黒の闇、風景は日中ではない。
 星月もない深夜に散歩をするだろうか。集合住宅には一つの灯りも見えない。
 寝静まっているのか廃墟なのかは不明であるが、人の気配がなく、ただ人がいるであろう建屋の林立があるのみである。活気や主義主張が打ち沈んでおり、未来を拓く恋人たちを迎える気配を感じない。

『恋人たちの散歩道』は立ちはだかる閉塞感がある。何しろ無言、沈黙している不気味さが恋人たちの未来予想(フレームの時空)を妨げている。

 道というものは、通り抜けられるものであるが、ここでは塞がれている。地表は描かれていないので、左右や背後にはあるのかもしれない、という憶測、楽観は否めないが、タイトルに道とあれば、主題である道が隠れているのはおかしい。道はまっぐ正視すべき方向を指し、明らかに障害である建屋(世間)を突き抜けるべく道を示唆しているのである。

 状況(世界)は平然と存在している。恋人たち(未来を拓く人たち)へのさりげない忠言である。


 写真は『マグリット』展・図録より