
『恋人たちの散歩道』
恋人、未来を夢見る二人である。道の前は漆黒の闇、しかし二人は突き抜ける無限の空を描いている。各々、少しの差異はあってもその風景は同質である。
しかし、よく見ると《道》ではない。集合住宅、数多の住宅街が立ちはだかっている。
つまり、道はないのである。彼方に大きく掲げた理想の自由(フレームの中の空)は、手の届かない遥か高所にある。個々人が入居する建物などより遥かに遠く高い。
手につかもうとすれば、さらに遠く離れていくかもしれない。
眼前に広がる遮蔽物、それは内在する人々の思惑でもある。社会であり、制度であり、主義主張が建物の中で息を潜めている。未来、新しい時間を開拓する若い二人の大きく重い障壁である。
『恋人たちの散歩道』は行き止まりであり、閉塞状態である。修正、破壊、災害、どんな未来が待っているかは定かでない。フレームの中の自由(青空)、設計図を遂行できる未来は沈黙している。
恋人たちの散策に目的はないが、その風景は厳然と自由の前に立ちはだかっている。
写真は『マグリット』展・図録より