
軽業師、観客の眼差しを混迷に陥れる術をもつ者である。
あり得ない光景に導く、身体能力だけでない《錯覚》を誘引する。
当の軽業師の疲労困憊、彼の休息の中にこそ非現実があり、その中に浸ることこそが至福であり休憩なのかもしれない。
身体はバラバラに切断され石(鉱物/無機質)の壁に埋め込まれている。軽業師の性別は分からないが、女性の裸身である。エロスというよりは母なる者の中に安息を得ている、永遠を望んでいる風でもある。
仮初の時空、きわめて人工的で、破滅の予感がある。バックは空なのか海なのかも不明であるが、海ならば、この頑強に見える衝立もすぐに流されてしまうに違いない。
極めて不自然な設定の中での休息、非現実の仮想、これこそが軽業師の休息であり、現実は自分を酷使させるばかりなのかもしれない。デュシャン自身のつぶやきである。
写真は『デュシャン』展・図録より